ドラちゃんのおへや

アニメ制作なんてわけないよ

第1回「アニメにしにくい原作とは!?」

 第1回は、「アニメ化しにくい原作」について。実は、このテーマはある本からいただきました。それは、松岡清治著「ドラえもん 秘密のポケット」(1993年、文化創作出版)です。著者の松岡氏は長年脚本家としてアニメドラに関わってこられた方で、この本はドラの謎本「ドラえもんの秘密」「野比家の真実」に続く「『テレビ版』の本」というコンセプトで書かれました。そして、その第11章「テレビを楽しむ章」に「テレビに出来ない原作もある?」という項目があり、ここでアニメ化しにくい原作作品について触れられているのです。
 具体的に「なかなかテレビアニメには出来ない原作」として挙げられているのは「ドラえもんだらけ」「ラジ難チュー難の相?」「実物ミニチュア大百科」「本物電子ゲーム」の4作品。それぞれ、アニメにしにくい理由が述べられているのですが、実はこの4作品とも、結局アニメ化されています。しかも、このうち3作は、この本が出版された時には既にアニメ化されているのですが、ページ数の都合もあってか、アニメ化に際してどのようなアレンジで問題を回避したかについては触れられていません。そこで、当コーナーでは、この4作品についてアニメ化に際して問題となった点をどう処理したかを、その問題点とともに紹介します。なお、原作は全て、てんとう虫コミックスに収録されていますので、原作を参照されると、なにが問題なのか、より理解しやすいと思います。

「ドラえもんだらけ」(→アニメ版「ドラえもんだらけ」1991年9月6日放送)

・アニメ化しにくい理由:二時間後、四時間後、六時間後、八時間後のドラえもんについての説明がしづらい
・アニメ化に際してのアレンジ:原作のように「←2時間後のドラえもん」などと画面上で説明を加える事はやめていたが、それでもドラ・のび太のセリフと話の流れだけで理解できる。ただし、5人のドラえもんが集まって宿題をする場面では、当然二〜八時間後の4人のドラは区別が付かなくなるが、原作でも特に区別していた部分ではないので問題はなかった模様。

「本物電子ゲーム」(→アニメ版「本物電子ゲーム」1994年8月26日放送)

・アニメ化しにくい理由:ジャイアンに槍が刺さる場面が、人体に害を及ぼすようなイメージを与える
・アニメ化に際してのアレンジ:ゲームシステムそのものは原作通りだが、落ちてくる物がハンマー・スパナ・鉄の玉などに変更された。槍が刺さる場面の描写を避けたためだろうが、この変更のために元ネタと思われるゲーム&ウオッチ「マンホール」にますます近いゲームとなってしまった。なお、本作のみ「秘密のポケット」出版後にアニメ化された。

「実物ミニチュア大百科」(→アニメ版「実物ミニチュア大百科」1989年4月21日放送)

・アニメ化しにくい理由:「カシ」と「カジ」の発音のミスという言葉のオチでラストが決まる点が難しい
・アニメ化に際してのアレンジ:基本的に原作と同じ展開だったが、原作からジャイアンのセリフが「ようし、カシだ、カジだ!」に変更された上、火事を消すために「雨」を出そうとして「飴」を出してしまい、更に「水」を出そうとして「ミ、ミズ!」と言ったところで「ミミズ」が出てくると言う具合に、原作以上に「発音のミス」「言い間違い」が強調されていた。

「ラジ難チュー難の相?」(→アニメ版「品物運勢鏡」1991年2月15日放送)

・アニメ化しにくい理由:犬のウンチをふんで「ケンウン」のオチがまずい(放映時間が食事時のため?)
・アニメ化に際してのアレンジ:やはり原作のオチは使えず、「遊園地の入場券を拾ってケンウン=券運」と変更されて、その後の展開も、遊園地で遊んでいたせいでしずかちゃんとの約束に遅れてしまうと言うオチに変えられた。なお、本作の脚本は松岡氏自身が担当。

 以上です。あらためて検証してみると、アレンジの仕方も様々ですね。
 個人的には、説明が少なくなるとややこしくなりそうな「ドラえもんだらけ」が、実際のアニメを観ると、特に分かりづらい部分もなかった事が意外でした。一晩で起こった出来事を描いた話だったからこそ、視聴者側も混乱せずに済んだのではないでしょうか。
 これが「ガラパ星から来た男」になると、一か月単位で現在と過去ののび太がややこしく交錯するので、原作通りにアニメ化したら相当分かりづらい話になったのではないかと思います。

 今回は、実際にアニメに関わっていた方が「アニメ化しにくい理由」を証言されている4作品のみを取り上げましたが、言うまでもなくアニメ化に際しては他の原作も色々とアレンジされており、挙げていけばきりがありません。
 その中でも、個人的に気になるのは、原作で普通にジャイアンなどが使っている「殺す」と言うセリフが、ことごとく他の言葉に変えられてしまっている点です。アニメでジャイアンがやたらと「ギタギタにしてやる」などと言っているのは、このためです。
 小さい子供への影響に配慮したのでしょうが、おかげで原作の「ジャイアン殺人事件」は、アニメでは殺人事件ではなくなり、個人的には面白さが半減したと思います。また、今回取り上げた「ドラえもんだらけ」も、原作にあった「やろう、ぶっころしてやる。」というセリフが、アニメ版ではカットされました。原作の「毒」の部分がアニメ化で薄められた例と言えるでしょう。


 さて、一応次回予告をしておきますと、今回のテーマが「アニメ化しにくい作品」でしたので、次回は「アニメ化出来ない作品」を取り上げてみたいと思います。
 単行本未収録作品だけではなく、普通にてんとう虫コミックスで読めるような話にも、アニメ化されていない作品は存在します。それらの作品を検証する事で、なぜアニメ化できないか、その理由が見えてくるのではないでしょうか。 (2004.4.18)