ドラちゃんのおへや

コロコロ文庫をぶっとばせ

第2回「お金がわいて出た話」

 「コロコロ文庫をぶっとばせ」第2回のテーマは「お金」です。実は、当初は1月に更新するつもりで「お正月」をテーマに予定していたのですが、諸般の事情で更新が遅れてしまい、すっかり時季はずれとなってしまったため、今年は見送ることとしました。そんなわけで、掲示板のティ濾器さんの書き込みを参考に、今回のテーマを決定しました。
 正直言って、実際に調べてみる前は「お金」を扱ったネタは、さほど多くないのではないかと思っていたのですが、コミックスを読み返すとぞろぞろ出てきました。大人は言うに及ばず子供にとっても、いや、限られたお小遣いをやりくりする子供だからこそ、「お金」は非常に関心の高い事柄であり、それ故に「ドラえもん」でも繰り返し扱われてきたのでしょう。
 では、作品紹介に移りますが、今回は作品数が多かったので、小テーマごとに分けて作品を紹介していきたいと思います。

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貯金
サブタイトル巻数初出作品内容
してない貯金を使う法4六・73・5機関車C53の模型が欲しいのび太。半年間かけてためる予定のパパの肩たたきのアルバイト代を、タイムマシンで半年後に取りに行き、先に使ってしまうが…。
人間貯金箱製造機40四・89・4ゲームソフトの発売日。のび太がお年玉を貯めておいた「パズル貯金箱」「さいみん貯金箱」「番犬貯金箱」の中のお金が役立つはずだったのだが…。
むりやり貯金箱PC3一・77・5プラモが欲しいのび太にドラえもんが出したのは、お金をむりやり貯金させる「むりやり貯金箱」だった。しかし、この貯金箱は融通が利かず…。

 まずは「貯金」。それも、郵便貯金ではなく貯金箱への貯金です。原始的ですが、いかにも小学生らしいお金のため方と言えます。中でも、未来の道具である、変な貯金箱そのものが話の中心となっているのが「人間貯金箱製造機」「むりやり貯金箱」の2作。特に、前者では様々な貯金箱が登場して、楽しませてくれます。そして、たとえ未来の道具を使っても、貯金がことごとくうまくいかないのはお約束ですね。使用者がのび太という点にも問題があるようですが。
 それに対して、「してない貯金を使う法」は少々趣が異なり、「未来の貯金を先取りする」というタイムマシンを使ったアイディアがメインテーマとなっています。お金とタイムマシンとを絡める展開は、後述の「ボーナス1024倍」「宝くじ大当たり」「この絵600万円」でも見られ、こちらを一ジャンルとして分類することもできるほどです。「時は金なり」の言葉通り、時間とお金とが密接に関わっていることの現れであり、興味深いところです。

銀行・質屋
サブタイトル巻数初出作品内容
ボーナス1024倍3四・73・12自転車を買ってもらうために、パパのボーナスを増やそうとするのび太。ドラえもんが思いついた「すごいこと」とは、銀行に預けることだった。
自動質屋機18五・79・4「自動質屋機」は、品物を入れるとその値打ちの分だけお金を貸してくれる道具。試しに売れない絵描きの絵を入れてみると…。
自動買いとり機29三・83・7「自動買いとり機」は、物をふさわしい値段で買い取ってくれる道具。のび太は、いらない本を買い取らせて、そのお金で新しいまんがを買うが…。
フエール銀行30四・83・1「フエール銀行」は、預金に一時間一割の利子が付く銀行。ただし、お金を借りた場合は、利子は一時間に二割。欲しいプラモがあるのび太は、ついついお金を借りてしまうが…。
しあわせ保険機---五・83・3掃除中にママにプラモを壊されてしまったのび太のために、ドラえもんは「しあわせ保険機」を出した。これは、どんな品物でも10円で、壊れたりなくしたりした時の保証をしてくれる道具。しかし、10円が掛け捨てと聞いたのび太は保険加入を断ったために、保険機は「もう少しわかる人と話してきたい」と言って外へ出ていき、しずか・スネ夫から契約を取ってくるのだった。二人が保険金を払ってもらうのを見たのび太はうらやましくなり、いらないものばかりを集めて保険に加入したが、ママは「いそがしい」と捨ててくれないし、ジャイアンも「ろくなものがない」と、取り上げてくれない。頭に来たのび太はゴミ捨て場に捨ててしまうが、自分で捨てたものには保険金は支払われないのだった。その上、気づくと部屋がガラーンとしている。ママが、保険をかけていないものを捨ててしまったのだ。

 次は「銀行・質屋」を扱ったお話。「ボーナス1024倍」は、前述の通りタイムマシンを絡めた話です。個人的には、100年後には預金者の名義がどうなっているのかが気になるのですが、深く追求しない事にします。また、100年後に果たして「お札」という形態が残っているかも気になるところです。冷静に考えると、あまり当てになりそうもない方法ですね。
 「自動質屋機」「自動買いとり機」は似たような道具。「自動買いとり機」は、純粋に品物の値打ちで買い取ってくれるところが、実在のリサイクルショップや古本屋などよりも、素晴らしい点ですね。「自動質屋機」も、画家の絵にあれだけの額のお金を出したのだから、美術鑑定にも使えそうです。あの絵に、それだけの価値があるのかどうかは、判断しかねますが。
 そして、「フエール銀行」。のび太はうっかりお金を借りてしまったために自滅しましたが、あんな真似さえしなければ、誰でも大金持ちになれるのではないでしょうか。未来では、この銀行のせいで大規模なインフレが進んでいないか、ちょっと心配です。
 最後に、「銀行・質屋」とはちょっと違いますが、「しあわせ保険機」も併せて紹介しておきます。これは、10円で保険に入れる道具。そう言えば「10円なんでもストア」という道具もありましたし、どうやらドラえもんの道具(=未来の世界)では10円が金銭の一つの基準となっているようです。となると、インフレなどは起きていないのでしょう。

税金・罰金
サブタイトル巻数初出作品内容
ばっ金箱5四・73・6「ばっ金箱」は、悪いことをしてしかられた人から、10円の罰金を取る道具。みんなで使うサッカーボールの代金を貯めるために、この道具を使うことになったが…。
税金鳥22四・79・10スネ夫ばっかりたくさん小遣いをもらっていることに対して「人間はみんな平等でなくっちゃいけない」というのび太。そこでドラえもんが出した道具が「税金鳥」だったが…。
ポカリ=百円28四・80・6「イシャ料しはらい機」は、ひどいめにあわされた相手から慰謝料を取ることのできる道具。のび太は、これを使ってジャイアンから殴られた分の慰謝料を取ろうとするが…。
いやな目メーター+2五・74・5「いやな目メーター」は、いやな目にあうとメーター通りにお金が出て、なぐさめてくれる道具だが、こわれやすい。のび太は、早速これで一儲けしようとするが。

 次は「罰金・税金」です。まずは「ばっ金箱」ですが、ここでも取られる罰金の額はやはり10円。これが子供のしつけのための道具だとすれば、他の10円道具もやはり子供用の道具と言う事でしょうか。それに対して「税金鳥」では累進課税の概念がしっかり組み込まれており、子供に対しても容赦がありません。何をしても10円で済むばっ金箱とは大違いです。
 「ポカリ=百円」は、慰謝料を取る道具の話。ひどい目にあわされた相手から直接お金を取るので、罰金と似たようなものと考え、ここに加えました。慰謝料の額をダイヤルで好きに調節できるという点が恐ろしい部分です。「いやな目メーター」は、「慰謝料」とははっきり言われていないものの、同系列の道具と判断できるので、併せて紹介しておきます。どちらも、いじめられっ子必携の道具ですね。

お金がわいて出た?
サブタイトル巻数初出作品内容
お金がわいて出た話18四・79・5「未来小切手帳」に必要な金額を書いてサインすれば、小切手として使うことができる。調子に乗って、たくさん買い物をするのび太だったが…。
デビルカード22て・80・5「デビルカード」を一振りすると300円出てくる。しかし、悪魔との契約のため、お金を出すたびに身長が一ミリ低くなるのだった。それを使いすぎたのび太は…。
円ピツで大金持ち25て・81・4「円ピツ」で紙に金額を書き込むと、その紙がそのままお金になる。喜んで使うのび太だったが…。
ムリヤリキャッシュカード35五・84・6「ムリヤリキャッシュカード」は、人からお金を取り立てる事のできる道具。これを使ってジャイアンから50円を取り返したのび太だったが、それをスネ夫に見られてしまい…。
タヌキさいふFF2三・73・10「タヌキさいふ」は、カキの葉っぱを入れると千円札になる道具。喜んでカキの葉を集めてお札にするのび太だったが、実はこれは未来の世界の子供たちが銀行ごっこに使う道具で、30分経つと元に戻ってしまうのだった。

 さて、次はズバリお金を作り出す(かのように見える)道具の話。しかし、そんなにうまい話があるわけもなく、全ての作品で「お金がわいて出るわけはない」というオチがつけられています。まあ、当然ですね。ただ、「デビルカード」だけは、いくらでも使えそうな感じですが。スモールライトと違って、ビッグライトには有効期限はないのでしょうか。
 それにしても、これだけ何回も同じような目にあっても、のび太は懲りませんね。「円ピツで大金持ち」の冒頭で「これを使ったら、その分だけ貯金がへるとか、物がなくなるとか、そんなことないだろうね。」と確認しているので、ちょっとは痛い目にあったことを覚えているようですが、結局最終的にはお金が無限に作り出せると勘違いして無駄遣いのし放題。見ていて滑稽ですが、非常にうらやましくもあります。

お年玉
サブタイトル巻数初出作品内容
お金なんか大きらい!16三・72・1お正月。パパは、お年玉を安くあげようとして「お金をほしがらなくなるくすり」をのび太に、のび太はお年玉をたくさんもらおうとして「お金をくれたくなるくすり」をパパに、それぞれ飲ませるが…。
出てくる出てくるお年玉20四・79・1ドラえもんが出した三種類の「お年玉ぶくろ」。「うめ」は「ごほうび型」、「まつ」は「なぐさめ型」、「たけ」は「せつやく型」と、それぞれ性質が違うのだが…。
オトシ玉PC12四・81・1床に落として自分の方へ引き寄せると、お年玉がもらえる「オトシ玉」を使って、たくさんの人からお年玉をもらったドラえもんとのび太。そこへ、のび太曰く「世界一のけちんぼ」と言う人が現れた。
おとしだまぼきん---一・74・1お金もちのくせにケチな、けち田おじさんからお年玉を貰うために、ドラえもんが出した道具が「おとしだまぼきん」。これを見ると誰でもお年玉をあげたくなる箱だ。これを持っておじさんの家に行った二人だが、それでもなかなかおじさんはお年玉をくれない。そこで、ダイヤルを回して道具の力を強めているうちに壊れてしまった。すると、おじさんは「もってるお金をぜんぶやるぞ」と言いだし、困った二人は逃げ出してしまう。しかし、おじさんの家を出ても大勢の人たちが二人を追いかけて、お年玉をあげようとするのだった。

 お正月のお年玉は、子供がまとまったお金を手にする事ができる、数少ない機会です。「ドラえもん」では、お正月をテーマにした作品がたくさん描かれており、その中の一ジャンルが「お年玉」テーマと、なります。これは4作品ありました。
 面白いことに、今回取り上げた作品のうち、「おとしだまぼきん」「オトシ玉」の2作とも、けちな年始の客からムリヤリお年玉をもらう話です。「おとしだまぼきん」は単行本未収録ですが、「ポコニャン」の「お年玉作戦」と話が似ているせいなのかもしれません。他には「新オバケのQ太郎」などにも、似た話があります。
 また、「出てくる出てくるお年玉」で登場する「お年玉ぶくろ」ですが、よく考えてみるとお金が出てくる条件は、どれも特にお正月とは関係ありませんね。それでも「お年玉ぶくろ」である以上は、お正月でないと使えないのでしょうか。

その他
サブタイトル巻数初出作品内容
宝くじ大当たり5三・71・8新聞に載っていた宝くじの当たり番号を見て、タイムマシンで売り出し日まで戻ってそのくじを買おうとするのび太。せめて、パパが今まで使った5万円を取り返そうというのだが…。
この絵600万円6四・72・12のび太のパパが絵を習っていた柿原先生は、今でこそ大画家だが、昔は認める人がおらず百円でも絵に買い手は付かなかったという。それを聞いたドラえもんとのび太は、タイムマシンで昔に戻って柿原先生の絵を買おうとするが…。
カネバチはよく働く8五・75・3人目につかない場所でねむっているお金を見つけだして、日本のためにはたらきたいと言うのび太。そこでドラえもんが出したのは、お金をひろっては、巣へもちかえってためる「カネバチ」だった。カネバチは、たくさんのお金を集めてきたが…。
お金のいらない世界13五・77・1「お金のいらない世界」に住みたくなったのび太。実際に試してみようと、「もしもボックス」を使って「お金のいらない世界」を作り出したが…。
大富豪のび太32五・81・7なくしたと思ったお年玉の一万円が出てきたのび太。昔に比べてお金の値打ちが下がったという両親の話を聞いて、「もしもボックス」で自分の一万円だけをそのままにして、う〜んと物価の安い世界にするが…。

 最後は、これまでのジャンル分けに収まらない作品を、まとめて紹介します。「宝くじ大当たり」「この絵600万円」は、前述の通りタイムマシン物。現在値打ちのある物を、値打ちの付かなかった時代にさかのぼって手に入れようとする点が共通しています。
 「お金のいらない世界」「大富豪のび太」は、もしもボックスが登場する作品で、2作品とも、のび太の作った妙な世界で展開される珍妙な光景が楽しめます。特に「お金のいらない世界」については「私のドラえもんBEST10」で詳しく取り上げていますので、ぜひご覧ください。
 「カネバチはよく働く」では、拾得物横領罪について学ぶことができます。「税金鳥」の累進課税もそうですが、読んでお金の知識を身につけられるあたりは、さすがに学習雑誌連載作品ですね。

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 以上、「ドラえもん」で「お金」に関わる話をご紹介しました。9作品しかなかった前回の「台風」とは違い、今回は何と26作品も見つかりました。これなら、十分に一冊の単行本を出せますね。これほど「お金」に関する話が多いのは、小学生にとっては限られた小遣いやお年玉のやりくりが切実な問題であり、あの手この手でお金を得ようとするのび太の姿が、読者の共感を得たからなのでしょう。
 いや、小学生だけでなく、大人になってから読み返しても、これらのお金を生み出す(?)道具がうらやましいことは変わりません。私などは「フエール銀行」が本当にあったらどんなにいいかと、ついつい思ってしまいます。
 これらの作品群を読んでいると、「ドラえもん」という作品は「夢」と言うよりは「欲望」をストレートに表した作品に見えてきます。だからこそ、「ドラえもん」からは「世の中そんなに甘い物じゃない」と、学ぶことができるのではないでしょうか。その意味では、子供たちには、これらの作品をじっくり読んで、大人になってからお金で失敗しないようにして欲しいものです。

「コロコロ文庫をぶっとばせ」第2回 おわり (2002.3.16)