ドラちゃんのおへや

コロコロ文庫をぶっとばせ

第3回「「時」はゴウゴウと流れる」

 「コロコロ文庫をぶっとばせ」第3回のテーマは「時間」。そもそも「ドラえもん」という作品自体、タイムマシンで22世紀から現代にやってきたネコ型ロボットが主人公なのですから、「時間」は「ドラえもん」とは切っても切り離せない重要なテーマであると言えます。
 ですから、「ドラえもん」で多少なりとも「時間」に関わってくる作品を挙げていくと、きりがありません。タイムマシンを使ってさえいれば時間テーマであると考えると、ドラえもんが登場した第1話まで含まれてしまう事になります。
 そこで、今回はあくまで「時間」そのものが話の軸として展開される作品のみに絞って、「時間テーマ」の作品として選んでみました。ですから、例えばタイムマシンを使っている話については、タイムマシンを使ったが故に騒動が起こる、いわゆるタイムパラドックス物のみを取り上げ、「ご先祖様がんばれ」などのように、タイムマシンは登場しても、マシンで行った先の時代が話の舞台となっているような作品は除いています。
 タイムマシン以外の時間系道具が登場する話についても同様で、基本的に「時間」そのものをいじるような道具が出てくる話のみを、取り上げました。このあたりは、境界線を引く事が非常に難しく、人によっては「なぜこの話が入っていないんだ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私の主観による判断と言う事で、ご了承下さい。
 それでは、私が「時間」テーマとして選んだ作品たちを見て行きたいと思います。

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タイムマシンの仲間たち
サブタイトル巻数初出作品内容
ドラえもんの大予言1四・70・2のび太に、しずちゃんの家に行くなと言うドラ。行くと、ダンプカーにはねられて全治一か月の大けがをすると言うのだ。それを避けるために、タイムテレビで未来の姿を見ながら行くことにしたが…。タイムテレビ初登場作品の一つ。
タイムふろしき2四・70・12テレビを修理するために、ドラえもんは「タイムふろしき」を出した。これで包んだものを、昔の状態にかえす事が出来るのだ。のび太は、これを使って金もうけをしようと考えるが…。
ゆっくり反射ぞうきん8四・75・5鏡を見るのび太だが、自分の顔が映らない。ドラが「ゆっくり反射ぞうきん」で鏡を拭いたため、映り方が遅くなっていたのだ。これをしずちゃんの部屋の鏡に使って、しずちゃんが一人で部屋にいる時の様子を見ようとするが…。
タイムマシンがなくなった!!22三・80・5ママに怒られそうになったのび太は、タイムマシンのある机の引き出しに逃げ込み、そのせいでタイムマシンがどこかの時代に流れていってしまった。ドラとのび太は「タイムベルト」と「タイムセンサー」を使ってマシンの行方を追うのだった。
きりかえ式タイムスコープ27四・79・6「きりかえ式タイムスコープ」を使うと、「もしこの時こうしていたら」と言う仮定の結果を見ることが出来る。日曜の朝、のび太はこれを使って、起きたあとどうなるかを見るのだが…。
タイムふしあな36三・84・9「タイムふしあな」は、ふしあなを通していつの出来事でも見ることのできる道具。これを使って、見逃した「ゼイ肉マン」を見ることができたのび太。外で色々見てこようとするが…。
タイムコピー43三・82・2スネ夫のゲームウオッチをやりたいのび太だが、ジャイアンに取り上げられたため、貸してもらえない。そこで、ドラが出したのはタイムテレビと立体コピーを組み合わせた「タイムコピー」だった。
タイムワープリール45四・85・12クリスマスプレゼントが待ち遠しいのび太。時間をすっとばす道具「タイムワープリール」を使って夜にワープするが、プレゼントの中身は期待はずれ。来年のプレゼントが気になり、さらにタイムワープをするが…。
みらいラジオ+1三・76・9「みらいラジオ」は、未来の音を聞くことが出来る道具。10分後の音を聞くと、強盗らしき声が聞こえる。怖がるドラとのび太だが…。
タイムピストルで“じゃま物”は消せ+2三/四・90・3反省して勉強に取り組むのび太だが、はかどらずさぼってしまう。怒ったドラえもんは銃のようなものを取り出して、それでマンガとおやつを撃って消し、さらにママやしずちゃんまでも同様に消してしまうのだった。慌てて宿題をやるのび太だが。
日づけ変こうチョークTCS2一・85・1「日づけ変こうチョーク」で描いた輪の中に入ると、一日だけ過去や未来に行くことが出来る。のび太は、これを使って明日に行くのだが…。
タイム手ぶくろとめがねPC14三・85・11「タイム手ぶくろとめがね」は、時の流れをこえて、未来や過去のものにさわる事が出来る道具。のび太はこれを使って、ジャイアンに取られたマンガを取り返し、さらには仕返しをするのだが。
山びこ山FF7三・74・4「山びこ山」は、過去の声を聞く道具。のび太は空き地で友達に見せびらかすが、昨日ジャイアンの悪口を話していたことを本人に聞かれてしまい、逃げ出す。家に帰ろうとするが、家の前で「山びこ山」を使ったために、ママが「うんとしかってやるわ!」と怒っているのを知ってしまい、帰るに帰れなくなってしまうのだった。
無題(タイムテレビ)---一・70・3「タイムテレビ」で本当に未来が分かるかどうかを試すことに。その結果、ジャイアンは2時50分頃怪獣に食べられ、3時にスネ夫の家には泥棒が入り、しずちゃんが泥棒を捕まえると出た。泥棒を回避するためにスネ夫は3時まで家に警官を呼ぶが、実は時計が進んでおり、警官が帰ってから泥棒が入った。ジャイアンは怪獣映画の看板に突っ込み、しずちゃんはなわとびをしていた縄で偶然泥棒を締め上げ、全てテレビの通りになったのだった。

 まずは、何らかの形で時間移動が可能か、または時を超えて過去や未来を見るなど、機能限定タイムマシンとも言うべき道具が登場する話を集めてみました。「タイムテレビ」をはじめとして「ゆっくり反射ぞうきん」「きりかえ式タイムスコープ」「タイムふしあな」など、後者に類する物が多いですね。「未来ラジオ」「山びこ山」も同様ですが、この二つはちょうど正反対の機能を持っています。「山びこ山」はてんコミ35巻「ま夜中に山びこ山が!」でも登場していますが、何故かこちらでは「過去の音を拾う」道具ではなく、単なる録音再生装置です。大長編「のび太と鉄人兵団」に登場した「改良型山びこ山」も、機能的に見て、てんコミ版の改良版ですね。
 そして、前者に属するのが「タイムベルト」「日づけ変こうチョーク」「タイムピストル」など。いずれも、時間移動のみで場所は動けなかったり、時間移動できる範囲が限られていたりと機能に制限があり、タイムマシンの簡易版と言えます。「タイムワープリール」などは、間の時間をカットしているだけで、後戻りは出来ないので、厳密にはタイムマシンの仲間とは言えないかもしれません。使いすぎると、恐ろしい道具です。
 そして、両者の性質を兼ね備えているのが「タイム手ぶくろとめがね」。めがねの方で未来を見て、手ぶくろで未来や過去の物体にさわる事が出来ます。「タイムコピー」も、時間を超えて物をコピーできるという点で、類似の道具と言えます。今では古くなった物でも、新品当時の物をコピーできるのは非常に便利ですね。小便小僧ジャイアンを見る限り、生物は外見しかコピーできないようですが、その方が安全でしょう。
 以上、簡易版タイムマシン的な道具を見てきましたが、これらの道具が登場する話は、機能が限定されているが故の面白さがあると思います。また、タイムマシンと違って持ち運び可能な大きさであるため、のび太が手軽に使って騒動を巻き起こす展開になりやすいですね。いずれにせよ、手軽な道具であるが故に、これらの作品では「時間」の本質的な部分には、あまり踏み込んでいない印象を受けます。

時間を操る道具たち
サブタイトル巻数初出作品内容
マッド・ウオッチ8六・75・2ママのお説教からのび太を救うためにドラが出した道具は、身のまわりの時間の進み方を早めたり遅くしたり出来る「マッド・ウオッチ」だった。
スピードどけい10二・75・8夏休みが待ち遠しいのび太。早く夏休みにするためにドラが出した道具は、針を回すと時間を早く進めることの出来る「スピードどけい」だった。
時間貯金箱16二・77・4「時間貯金箱」は、時間をためたり、ためた時間をおろして使うことの出来る道具。のび太は、無駄な時間をたくさん貯金するが…。
時間よ動け〜っ!!24二・79・9のろまと言われて泣き出したのび太を見て、ドラは時間を止めることの出来る「タンマウオッチ」を出した。これを使っていたずらをしまくるのび太だったが、道具が壊れてしまい…。
のび太のなが〜い家出25三・81・4短い時間の家出でママを心配させたいというのび太。そこでドラは、楽しいことを時間をたっぷりかけて味わうために使う「時間ナガナガ光線」をママに照射した。
時門で長〜い一日31三・81・7のび太の宿題のために、ドラは「時門」を使って時間がゆっくり流れるようにした。その後、しずちゃんと長く遊ぶために「時門」を使うのび太だったが…。
「時」はゴウゴウと流れる34三・83・5「むだ時間とりもどしポンプ」を使って、無駄に過ごした10時間を取り戻したのび太。この間に、やるべき事を全てすませようとするが…。
ウルトラストップウォッチFF9四・73・9のび太の宿題のために「ウルトラストップウォッチ」で時間を止めたドラ。のび太はこの道具でいたずらをしまくるが、道具を使いすぎたせいで人より早く年を取ってしまい、大あわて。実は、ドラがこっそり時間を止めて、のび太の顔にしわを落書きしたのだった。
無題(まほうのとけい)---よ・71・3「まほうのとけい」の針を動かすと、現実の時間も同じになってしまう。ドラとのび太は、何度も3時にして、おやつを何回も食べた。夜になっても、のび太はもっとあそびたい。そこで、ドラはとけいを使って、また昼間にするのだった。
まほうのとけい---一・71・3「まほうのとけい」の針を動かすと、現実の時間も同じになってしまう。ドラとのび太は自分たちの都合の良いように時間を動かして、夜になっても昼に戻してたっぷり遊んだ。そのせいか、翌朝になってものび太は起きない。ドラは仕方なく、とけいを使って夜に戻してごまかすのだった。
ふしぎなさいころフリダシニモドル---三・73・1サイコロの形をした「フリダシニモドル」は、1が出たら1分と、出た目の数だけ時間が逆戻りする道具。これを使って、失敗したことをやり直すのび太だが、何度やり直してもはねつきで負けてしまう。いつでもやり直せると思うと、かえって失敗ばかりすると悟ったのび太は、道具をドラに返した。その後二人は、スネ夫・ジャイアンとすごろくで遊ぶが、のび太は何度やっても「ふりだしにもどる」ばかりが出るのだった。

 次は「時間」そのものを操る事が出来る道具が、登場する話です。似たような機能の道具が多い印象を受けますが、中でも時間を自由に止めたり動かしたり出来る「タンマウオッチ」「ウルトラストップウオッチ」などは、上手く使えば世界征服も可能な、非常に危険な道具でしょう。もっとも、大長編「のび太の日本誕生」では、ギガゾンビによってタイムロックが解除されていますので、未来の世界では、時間停止を監視する仕組みがあると思われます。
 また「まほうのとけい」なども、他愛のない道具と言ってしまえばそれまでですが、針を動かすだけで現実の時間まで変わってしまうのですから、時間操作系道具としてはかなり強力な部類に入ると思います。なお、「まほうのとけい」2作は同年同月の「よいこ」「小学一年生」に同時発表されています。さすがに、6誌同時連載では苦しかったのでしょうか。
 これらの道具は、遊ぶ時間がたっぷりある子供の頃よりは、むしろ大人になってから切に欲しいと思うのではないでしょうか。私などは、うっかり昼寝をしてしまった時などは「むだ時間とりもどしポンプがあれば…」などと思ってしまいます。世界中の人に迷惑をかけるとは言え、「時門」も捨てがたいですね。

タイムマシンで大騒ぎ
サブタイトル巻数初出作品内容
プロポーズ作戦1四・71・11のび太の両親が、どちらがどちらにプロポーズしたかでけんかになってしまった。ドラとのび太は真実を確かめるべく、タイムマシンで過去へと向かうが…。
ドラえもんだらけ5三・71・2のび太に宿題を頼まれたドラ。たくさんあって一人では出来ないと、タイムマシンで2・4・6・8時間後の自分を連れてきて手伝わせるが…。
のび太ののび太9六・75・8ドラの所に、タイムマシンで朝のドラがドラやきの特売を知らせに来た。自分をタイマー代わりにしているのだ。それを見たのび太は真似をするが…。
正義のみかたセルフ仮面12六・76・7のび太がピンチになると、どこからともなく救いにきてくれる正義の味方・セルフ仮面。彼の正体は、果たして誰か?
タイムマシンで犯人を15四・71・4学校で、ガラスを割った犯人にさせられたのび太。タイムマシンで過去に戻って、真犯人を突き止めようとするのだが。
無事故でけがをした話22五・78・1タイムマシンを使って探偵ごっこをするのび太。ジャイアンから、父ちゃんをひきにげした車を突き止めてくれと頼まれ、過去に向かうが…。
のび太の0点脱出作戦37五・85・7明日のテストでどうしても0点は避けたいのび太。タイムマシンで一週間後へ行って、出木杉の答案を見ようとするが、そこで待ち構えていたのはのび太自身だった。
のび太の名場面44三・77・11朝早くに道路を掃除していて、老人にほめられたのび太。その感動を再び味わいたくなり、何度もタイムマシンで見に行くのだった。
ガラパ星からきた男45三/四/五・94・7〜9ゲームソフト「紅帝伝説」が欲しいのび太は、タイムマシンで一か月後に行って、たまっているはずの貯金を手に入れようとする。しかし、一か月後の世界はどこか様子がおかしかった。
大きくなってジャイアンをやっつけろ+2四・73・2ジャイアンとけんかになったのび太。ジャイアンに勝つために、タイムマシンで中学生ののび太を連れてくることにしたが。
ボクを止めるのび太+1六・77・12小遣いが貯まり、以前からの夢だったカップめん10個食いに挑戦したのび太だったが、5個目で嫌になった。そこで、のび太はタイムマシンで過去に戻り、過去の自分を説得してカップめんをプラモに変更させようとするが…。
月給騒動+2六・73・10パパが、ゆうべよっぱらって月給ぶくろを落としてしまった。ドラとのび太は、ゆうべのパパの行動を探ろうとタイムマシンで出かけて、おでんの屋台や焼鳥屋でパパを見張っていたが。
タイムマシンTCS5三・72・8暑い夏。早く冬になってスキーがしたいのび太は、タイムマシンで半年後に行くのだった。しかし、入れ違いに半年後ののび太が夏に戻って来てしまい、海へ連れて行ってと両親にせがむ。

 最後は、藤子・F・不二雄先生の真骨頂とも言うべき、タイムパラドックスを扱った話です。SFの好きな私にとっては、大好きなテーマです。「タイムパラドックス」は、下手にいじってしまうと難解な題材であるにもかかわらず、小学生にもわかりやすくて面白い話をこれだけたくさん生み出したF先生は、やはりSFの名手だと思います。
 「ドラえもん」とは関係のないF先生のSF短編にも、「タイムマシンを作ろう」や「オヤジ・ロック」など、タイムパラドックステーマの作品がいくつかありますので、興味を持たれた方は、ぜひご一読下さい。

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 以上、「時間」テーマを扱った全38作品を紹介いたしました。さすがに「時間」は「ドラえもん」の根幹に関わっているだけに、かなり多くの作品が描かれています。また、最初に書いたように、ただタイムマシンで時間旅行をするだけのような作品は除いていますので、もし、それらの作品を入れるとなると、もっと作品数は多くなります。
 「時間を操る」ことは、ロボット開発のような実現性の高い技術とは違って、「四次元」の概念が絡む、まさに夢の技術と言えます。それにも関わらず、F先生が「ドラえもん」を含め、「時間」を扱った多くの作品を描かれているのは、先生自身の「時間」への憧れが形になったのではないかと思います。
 そして、「ドラえもん」の作中では、タイムマシンの発明は2008年。5年後です。正直言って、仮にタイムマシンが発明されるとしても、こんなに早くに出来るとは思えません。それは、F先生もご承知の事だったと思います。それにもかかわらず、はっきり「2008年」と書かれたと言う事は、これもまた「時間」への憧れであるとともに、技術の進歩への淡い期待が込められていたのではないでしょうか。

「コロコロ文庫をぶっとばせ」第3回 おわり (2003.3.3)