ドラちゃんのおへや

帰ってきたガチャ子

ガチャ子登場全作品紹介

 ここでは、ガチャ子の登場した「ドラえもん」全5作品のあらすじをセリフなどを含めて詳しく紹介し、さらに各話に解説を付けました。完全にネタばらしをしているので、「藤子・F・不二雄大全集」でこれらの話を読みたいという方は、ご覧にならない方がいいでしょう
 掲載誌が低年齢向けの「小学一年生」「小学二年生」であるため、セリフのほとんどは平仮名であり、キャラ名も「どらえもん」「のびた」「がちゃこ」などと表記されていますが、ここではそれらも原文に忠実に紹介しました。

 ロボットのガチャ子 

(初出「小学二年生」1970年5月号、全9頁)

 学校の裏山に集まって話をしている子供達。スネ夫が「きょ年のえんそくは、春もあきも雨だった。きっと、ぼくらの中に、雨男がいるんだぞ。」と言い出す。スネ夫は、のび太が雨男だというのだ。そのため、明日のみどりの山の遠足には来るなと言われてしまったのび太。ドラえもんに、明日絶対に雨が降らないように出来ないかと相談するが、ドラえもんは「やめな。そんなやつらといっしょに行くのは。ぼくがもっといいとこにつれてくよ。」と言い出す。しかも「どこがいいかな。アメリカ、イギリス、フランス………」と、とんでもないところに連れていきそうな気配だ。
 困ったのび太は、セワシに相談する。すると、セワシは未来からロボットを呼んだ。「ガース」の鳴き声とともに机の引き出しから現れたそのロボットの名は「ガチャ子」。セワシがガチャ子に、のび太がみどり山へいきたいのだと説明すると、ガチャ子は「かんたんよ。」と言い、すかさずのび太をつかんで飛んでいく。あっという間にみどり山に着いたが、もう夕日が沈もうとしている。のび太が遠足は明日だと言うと「ガース、それを早くいいなさい」と、ガチャ子。
 その夜、ドラとガチャ子は「アメリカへ行くんだ。」「みどり山よっ。」と言い争いをし、うるさくてのび太は眠れない。そのせいで翌日のび太は寝坊をし、あわてて学校へ行く支度をするが、ドラとガチャ子は大いびき。その後、あわてて学校へかけていくのび太を「ねぼうしちゃってごめん。」と、空からつかみあげるガチャ子。ガチャ子が学校へ送ってくれたおかげで、のび太は何とか遠足の出発に間に合った。そのころ、やはり寝坊したドラはタケコプター(ヘリトンボ?)で、大急ぎで空を飛んでいくのだった。
 みどり山へと歩いていくのび太達一行。いやな雲がでてきて、雨が降りそうになる。のび太はガチャ子に「だいじょうぶ? ふらないだろうね」と言うが、返事は「たぶんふるでしょ。」。のび太は「とめてよ」と頼むが、ガチャ子は「それはむりよ。ふったっていいじゃない」などと言うのだった。
 雨男だと言われたくないのび太は、家へ帰ろうとする。それを追うガチャ子。そこへ「さあ、アメリカへ行こう。」と、ドラえもんがようやく追いついた。アメリカへ行こうとするドラと、みどり山に連れ戻そうとするガチャ子は、空中でのび太を引っ張り合う。その後、どちらへ行くかじゃんけんで決めようとするが、その拍子にのび太を離してしまい、のび太は落ちてしまう。
 じゃんけんにはガチャ子が勝ち、みどり山へ行くことになる。「もし、ふってきたらどうする。」と言うドラに対しガチャ子は口から輪っかを出し、「まほうのわがあるからへいきよ。」と言う。この輪は、水を吸い寄せる効果があるのだ。
 そのころ、みどり山ではとうとう雨が降り出していた。スネ夫は先生に「のび太が雨男なんですよ。」と言うが、先生に「それはめいしんだよ。」と否定され、さらに、しずちゃんにも「のび太さんはとっくにかえったのよ。」と言われてしまうのだった。そして、のび太達もようやくみどり山へと着いた頃、すでに雨は降りだしていた。「早くわを出してよ」とガチャ子に言うドラ。ガチャ子が「雨、あつまれ。」と言って輪を出すと、輪はスネ夫の頭の上へ。雨は全部わを通って降り、それを見たジャイアンは「スネ夫が雨男だっ。」と叫ぶのだった。

[解説]

 本編は、「小学二年生」(以下「小二」)で唯一のガチャ子登場話。はたして初めから一回きりのゲストキャラの予定だったのか、それともレギュラー化するつもりが不評で取りやめたのかが気になる。初登場にしては、ガチャ子がどんなキャラなのかろくに説明されていないことから考えると、その後の話でも登場させ、少しずつ説明して行くつもりだったのだろうか。それにしては、レギュラーだった「小学一年生」(以下「小一」)版でも最後まで素性はわからないのだが。
 さて、この話で印象に残るのは、ガチャ子のはちゃめちゃぶりよりはむしろドラのズッコケぶりの方だろう。遠足のかわりにのび太を外国へ連れていこうとするドラに比べれば、雨が降ることは避けられないとして「まほうのわ」で降ってきた雨を一カ所に集めるガチャ子の方がよほど現実的で有効な対策をとっている。しかし、ドラがガチャ子に劣るのであれば、ガチャ子の方がのび太のお守りにはふさわしいことになってしまう。もしかしたら、小二でガチャ子の出番がこれ一度きりなのは、そのせいなのかも知れない。
 さて、この話ではスネ夫がのび太に雨男の疑いを掛けるのだが、この「のび太雨男疑惑」がはっきりと晴らされるのは、なんと本編発表から14年近く経ってからになる。それは「雨男はつらいよ」(初出「小学五年生」1984年2月号、てんとう虫コミックス第34巻)で、この話で登場した「雨男晴れ男メーター」によれば、のび太は「マイナス2」で軽い雨男、そしてスネ夫こそが「マイナス7」で「使い物にならない」ほどの雨男だったのだ。結局、本編冒頭でスネ夫が言っていた「ぼくらの中」の雨男とは、他ならぬスネ夫本人だったと言う事になる。ちなみにジャイアンはプラス10、しずちゃんはプラス9で、二人ともかなり強い晴れ男(女)である。
 最後に、テレビアニメについても触れておく。本編はガチャ子登場話であるためアニメ化はされていないと思われがちだが、実は新旧両方でアニメ化されている希有な作品の一つである。アニメ版サブタイトルは旧ドラでは「のび太は雨男の巻」(第9回Bパート、1973年5月27日放送)、シンエイ版では「雨男はだれだ!?」(第438話、1980年9月29日放送)で、残念ながらいずれもビデオ化されていないが、ガチャ子が全く登場しないシンエイ版はもちろん、旧ドラでもこの話の放送がガチャ子登場編よりも早かったことから、ガチャ子が登場しない展開に話がアレンジしてされたと思われる。事実、旧ドラでは「ドラがのび太を無理矢理みどり山へ連れていく場面」の存在が確認されている。旧ドラでわざわざこの話をガチャ子登場前に持ってきたことから、放映開始当初は旧ドラでもガチャ子の登場は予定していなかったと思われ、興味深い。


 ドラえもん対ガチャ子 

「小学一年生」1970年5月号、全8頁)

 机に向かって宿題をするのび太。だが「2+3=4」と、内容がいけない。ドラえもんはそんなのび太に「これ、ちがってるよ」と教えてやろうとするが、ドラも「2たす3は、6にきまってるじゃないか」と、頼りにならない。
 そこに、ドアの方から謎のロボットが「ぎゃはははは。ふたりともあたまわるいな」と言いながら登場。ドラえもんが「あっ、がちゃこ。なにしにきたの」と聞くと、「どらちゃんが、たよりないからかわりにきたのよ」という。彼女はガチャ子というのだ。ガチャ子に「わたしのほうがやくにたつわよ」と言われ、ドラは憤慨する。ドラは「なんだと。そんならくらべてみようか」と言い出し、どちらがよりのび太の役に立つかについて対決を始めるのだった。
 まず、のび太は宿題を頼むが、二人とも自分がやりたがりのび太のノートはボロボロになる。のび太は泣いてママに訴えるが、「しゅくだいをたのんだりするからよ」と言われてしまう。それを聞いたドラは「そうです」、ガチャ子は「だからほかのことしてあげる」と、のび太が泣いている事は全く気にしていない様子だ。
 次にのび太が「おやつがたべたい」と言うと、ドラとガチャ子は「よしっ。すぐもってくる」と駆け出し、それぞれお菓子をお皿一杯に持ってきて、のび太の口に無理矢理押し込む。のび太は「うがあっ もがもが」と怒るが、それを見た二人は「ないてよろこんでる」「ぼくたちしんせつだな」と言い出す始末。
 ドラは「さあこんどはなにをしよう」と言うが、のび太はうんざりした顔で「なんにもするな」と言うのだった。さらにのび太が「あっちへいっててくれよ、ひるねするんだから」と言うと、二人はのび太がぐっすりねむれるように、ドラは「付けると暗くなる電球」で部屋を暗くし、ガチャ子は、ママとお客の口にバンソウコウを張り、静かにさせようとする。さらに、二人はのび太の横で大声で子守歌を歌うが、ママに「しずかにしなさい」としかられてしまうのだった。
 のび太は、昼寝をやめて部屋を出ようとする。それに気づいた二人はのび太を無理矢理つかまえて「おでかけのしたく」をしようとするが、のび太はトイレに行くだけだった。すると、二人は「そんならわざわざいかなくてもいい」と、それぞれ便器を持ってくる。のび太は困り果て、ちょうど机の引き出しから現れたセワシに「なんとかしてよ」と訴えるのだった。

[解説]

 小一でのガチャ子登場編。終始、ドラとガチャ子の対決が描かれた珍作で、ドラもガチャ子も「目的のためには手段を選ばず、周りの迷惑も考えない」と言うどうしようもないロボットとして描かれている。ドラが非常に頭の悪いロボットに見えてしまうが、初期のドラは別にガチャ子がいなくてもこんなものである。逆にガチャ子のキャラを、ドラのレベルに合わせて設定したのだろう。そう考えると、おバカなロボットにされてしまったガチャ子の方が不幸なのかも知れない。
 さて、ガチャ子は小一では本編から数ヶ月にわたってレギュラー・キャラクターとして活躍することになる。にもかかわらず、一回きりの登場だった小二と同じく彼女がどんなロボットか全くと言って説明がない。これは、低学年向けだから「ドラと同じく22世紀からやってきて…」と言った説明はややこしいとの判断で省いたのか、それとも順次作品中で説明するつもりだったのだろうか。この後のガチャ子登場話を見る限りやはり特に説明はないが、ガチャ子登場編は「小一」全話でも4話しか存在しないため、何とも言えない。しかし「ドラに負けず劣らずめちゃくちゃなロボット」だと言う事は、本編でしっかり読者に伝わったことだろう。
 さて、最後にアニメ版だが、おそらく旧ドラの「ガチャ子登場の巻」(第13回Aパート、1973年6月24日放送)はこの話をベースにしたのだろう。また、シンエイ版では「面倒見るのはどっち!?」(第432話、1980年9月19日放送)が、どうやら本編を原作としているらしい。気になるのは、原作のガチャ子の役を誰に割り振ったかである。だれにやらせるにしても、ガチャ子と同じ性格のキャラなどいないので、原作とはかなり違う話になってしまったと思われる。


 きょうりゅうが来た 

(初出「小学一年生」1970年6月号、全8頁)

 のび太は恐竜の本を見て「大むかしいたんだよ。みたいなあ。」と言う。それを聞いたドラえもんは「ぼくみたことあるよ」と言い、ガチャ子は「みたいの。」と言って机の引き出しに飛びこむ。ドラえもんは、タイムマシンで恐竜を見てきたことがあるのだ。そして、しばらくしてガチャ子が「つれてきたわよ。」と、机の引き出しから出てくる。何と、恐竜の首にひもを付けてひっぱって来ている。タイムマシンで昔から連れてきたようだ。
 ドラはおどろいてガチャ子に「ほんとにつれてくるやつがあるか。ばか。」と言うが、ガチャ子は「ばかとはなによう。」と機嫌を損ね、タイムマシンで未来に帰ってしまう。当然、恐竜は置きっぱなしで、ドラとのび太はその扱いに困る。のび太は「あそんでこようっと。」と部屋を抜け出そうとし、ドラも「ぼくもいく。」とついてくるが、恐竜まであとをついてくるのだった。
 外へ出た恐竜は「がほ がほっ」と、おなかがすいて機嫌が悪い様子で、のび太はパンを買いに行く。そこへスネ夫が通りがかり「やあかっこいい。だれがはいってんの。」と、恐竜の足を蹴る。「があ」と怒り、スネ夫をつかみ上げる恐竜に、ドラとのび太は「ぱんをあげるから」「こっちのほうがおいしいよ。ね、ね。」となだめようとする。恐竜はパンを喜んで食べ、命拾いするスネ夫だった。恐竜はもっとパンを食べたがるが、のび太にはもうお金がない。恐竜は再び「どがあ」と怒りだし、走り出してドラとのび太を追いかける。逃げながら、のび太はドラに「小さくするどうぐがあったろ。」と言い。ドラは「あ、そうか。」と思いだし、スモールライトを取り出す。何とか恐竜を小さくして、昔の世界へ返すのだった。
 その後、テレビで幽霊が出ているのを見るドラ、のび太、ガチャ子。のび太は「ゆうれいなんて、ほんとにいるかしら」と言う。それを聞いたガチャ子は「さがしてきてあげる。」と、またも机の引き出しの飛び込もうとする。ドラとのび太は「いいよっ。」と、あわてて止めようとするのだった。

[解説]

 「ドラえもん」の作者、藤子・F・不二雄先生の恐竜好きは有名で、「ドラえもん」でも恐竜はたびたび顔を見せている。大長編「のび太の恐竜」「のび太と竜の騎士」などは特に有名だが、短編でも初期から恐竜の登場する話は何度も描かれ、文庫で「恐竜編」を出せるほどである(ただし「恐竜編」というくくりではちょっと無理がある話も見受けられるが)。本編は、そういった「ドラえもん恐竜編」に名を連ねるべき作品のうちでも、最初期に描かれている。
 本編1コマ目ののび太のセリフ「大むかしいたんだよ。みたいなあ。」にも、作者の恐竜へのあこがれがあらわれているのだろう。こういう出だしだと「タイムマシンで大昔に行って恐竜を見に行く」という展開になりそうだが、それよりもいち早くガチャ子が自分で恐竜を連れてきてしまったため、太古の恐竜に思いを馳せるロマンではなく、現代が舞台のドタバタになってしまった。
 本編でもっとも気になるのは、ガチャ子がどうやって恐竜をつかまえてきたかと言うことだ。見たところ恐竜には傷跡一つなく、むりやり連れてきたという感じではない。恐竜は、首のひもだけでガチャ子に素直に従っているので、もしかしたらガチャ子が眼光で恐竜を射すくめさせ、子分にして従わせたのかもしれないが、普通に考えればあのひもが未来の道具で、何らかの形で恐竜を操って連れてきたのだろう。ドラは、ひもの使い方どころかこれが道具であることにすら気づかなかったため、恐竜をコントロールできなかったと思われる。なお、実は本編の一月前に「小学三年生」5月号に、ドラとのび太が恐竜がりをする「恐竜ハンター」(TC&FF2巻に収録)が掲載されているのだが、学年・掲載誌が違うので話の流れが別と考えるべきだろう。
 最後にアニメ版について。旧ドラでは、サブタイトルで判断する限りこの話を原作に使った話はなさそうである。シンエイ版では「恐竜がきた」(第420話、1980年9月3日放送)が、どうやら本編を原作に使っているらしいが、やはりビデオに収録されていないため確認はとれていない。


 まほうのかがみ 

(初出「小学一年生」1970年7月号、全8頁)

 ガチャ子はのび太を追いかけ回し、一つしかないお菓子を「いいからちょうだいよ。」と、欲しがる。のび太は何とかガチャ子をまいて、庭に座って本を読むドラえもんに助けを求めるのだった。するとドラは「そんなのわけない。」と、ポケットから鏡を取り出す。のび太がその鏡にお菓子を映すと、鏡からもう一つお菓子が出てきた。これは、写ったものをコピーできる鏡だったのだ(正式名称不明。「フエルミラー」の原型と思われる)。
 コピーしたお菓子をガチャ子にあげて、ドラとのび太はさらにお菓子をたくさん鏡から出す。そこに、おもちゃのクレーン車がやってきて、お菓子をつかんで走り出した。それを追うと、家の前にスネ夫がいた。スネ夫は、自分のクレーン車を見せびらかしに来たのだ。ドラはクレーン車を借りて、鏡でコピー。たくさんのクレーン車を見せてスネ夫を驚かせるのだった。
 のび太は、パパとママに「なにかほしいものは」と聞く。鏡でコピーしてプレゼントするつもりなのだ。ママは「くるまがほしいわ」と言う。のび太とドラは、外を通りがかった車を鏡に映して、コピーを作った。ママは喜び「みんなでどらいぶにいきましょう」と言い、それを聞いたガチャ子は「わたしがうんてんする」と言い出す。みんなは「あぶないからだめ。」と止めようとするが、ガチャ子は「したくしてくるわ」と、やる気満々。困ったのび太達は、自分たちのコピーを作り、ガチャ子の相手をさせることにした。本物たちは、そのすきにドラえもんの運転でドライブに出かけるのだった。
 ヘルメットをかぶってやってきたガチャ子が、コピーたちに「どらいぶにいかないの」と聞くと、「やめたの」と言われる。ガチャ子は「つまんない」と、ご機嫌ななめ。庭を歩いていると「あら、これはなにかしら。」と、偶然ドラの落としていった鏡を見つけた。すると、鏡の中から「があす」と、ガチャ子のコピーが出てくる。
 ドライブから帰ってきたドラたち。家に帰ってみると、家中がガチャ子だらけで、のび太達のコピーが困っているのだった。

[解説]

 まずは、本編に登場した道具について。本編サブタイトルは「まほうのかがみ」だが、本編中でこの道具の正式名称は明らかにはされていない。よくみると、この道具は大長編「のび太の創世日記」に登場した「フエルミラーコンパクトタイプ」とほとんど同じで、違う点は鏡が四角いか、丸いかくらいのものだ。この道具のマイナーチェンジ版が「フエルミラーコンパクトタイプ」なのかもしれない。
 ところで、本編は全5話のガチャ子登場話の中でも、特につっこみ所の多い話である。かがみで作った野比一家や大量に増殖したガチャ子を一体どう始末するのか(やはり、鏡の中に戻すのだろうか)も気になるが、一番気になるのは、ドラえもんの運転で野比家がドライブに出かけたことである。初期からパパは免許を持っていない設定だったようだが、だからと言ってドラが運転していいということはないだろう。仮に彼が22世紀の運転免許を持っているとしても現代では通用しないだろうし、本編発表当時はドラとガチャ子の性能がほぼ同レベルであることを考えると、ガチャ子はダメでドラの運転ならよしとする野比家の面々の神経は理解しがたい。まあ、本編を見る限り無事に帰ってきたようなので、どうでもいいことなのかも知れないが。
 最後にアニメ版だが、旧ドラではそれらしいサブタイトルは見当たらない。シンエイ版では「分身かがみ」(第412話、1980年8月22日放送)がおそらく本編のアニメ版であろう。例によってビデオには未収録だが、おそらくガチャ子の登場しない話に改変され、ドラの運転場面も無くなっていると思われる。


 クルパーでんぱのまき(「おかしなでんぱ」) 

(「小学一年生」1970年11月号、全8頁)

 のび太は、学校では算数の問題を間違え、かけっこではビリ、帰りに近道しようと空き地の柵を越えようとしても足が引っかかってこけてしまい「なにをやっても、だめだなあ」と言われてしまう。
 翌日朝。すっかり自信を無くしたのび太は、学校へ行くのを嫌がり布団から出ようとしない。そこへガチャ子が机の引き出しから出てきて「まかしといて。ばかにされないように、してあげる。がっこうへいきなさい。」と言う。
 場面は変わって学校。先生とのび太以外の生徒は「1+1=」の問題がどうしても解けない。また、なぜかみんな鼻水を垂らして、目の焦点が合っていない。「きっとそれは大がくのもんだいです。」などと言い出す者まで出る始末。そこへのび太が黒板の前に出て問題を解くと、「どひゃあ」「すごおい」と、みんなが驚くのだった。
 その後、体育のかけっこでものび太が一番で、空き地の柵ものび太だけがちゃんと飛べるなど、のび太は周りの人と比べてずば抜けた能力を発揮するのだった。「のびたってすごいな。」「なんでもできるもんな。」「あたまもいいし。」と、のび太は街で評判になる。
 のび太が家に帰ると、ドラえもんとガチャ子が言い争いをしている。この異変の原因は、ガチャ子がけさ「クルパーでんぱ」を発射したことだというのだ。ガチャ子によると、クルパーでんぱとは「あたまもからだもよわくなるでんぱ」で、のび太にだけはかけなかったのだ。ドラは「みんなにわるいから、なおそう。」と言うが、のび太は「しばらく、このままにしておこうよ」と嬉しそうな様子。
 のび太はママに「みんなが、ぼくのことほめるんだよ」と教えに行くが、パパとママは居間で西部劇ごっこや鯨釣りをして遊んでいる。パパは、会社へ行くのをすっかり忘れており、ママもご飯の支度を「あいあい。ごはんでちゅ。」と、ままごとで済ませるなどすっかり頭が弱くなってしまっている。
 パパに「かわりにかいしゃへいって。」、ママに「ねえ。ごはんつくってえ」と言われ、困り果てるのび太。ドラに「はやくなおして。」とせがむのだった。

[解説]

 本編は、ガチャ子の登場した最後の作品。それを差し引いても、まず現在では発表できないであろう素晴らしいサブタイトル&道具名である。本編の見どころは、何と言ってものび太以外のキャラの狂いっぷりにあり、上のストーリー紹介ではそれが満足に伝わらず残念である。特に、のび太の両親に至っては2ページにわたって「せいぶげきだじょ。バンバン」「あたいくじらをつるの」「あいあい。ごはんでちゅ。」「たらいま。かいしゃにいくみちをわすれたよ。」など綿密に描写されており、一種異様な世界に引き込まれる。本作はカラー原稿だが、この内容では残念ながら「ドラえもんカラー作品集」への収録はあきらめた方が良さそうだ。本編を、「全員のび太並」程度にまで押さえて描いたのが「ビョードーばくだん」(てんとう虫コミックス第26巻)、「人間うつし(はおそろしい)」(てんとう虫コミックス第45巻)などの作品なのだろう。
 さてアニメ版だが、恐ろしいことに旧ドラで「クルクルパー電波(または光線)」と言う道具が登場していたと言う情報を複数の方から頂いている。これが「クルパーでんぱ」を元にした道具であるのは間違いないだろう。本当なら、原作以上にストレートなネーミングなのが恐ろしい。よく放送できたものである。この話の話数などは、残念ながら不明。また、さすがにシンエイ版では本編を原作としたエピソードはなさそうである。