ドラちゃんのおへや

私の好きなドラ話

fuchiさん

「分かいドライバー」
初出 てれびくん1977年6月号付録
再録:コロコロコミック vol.2

 私が現在最も気に入っているエピソード、「分かいドライバー」の紹介をしたい と思います。  ちょっと解説しますと、この話は未収録の上にアニメ化もされていない、かなり珍し いエピソードでして、私も国会図書館で偶然目にするまでは、全く気にも留めていない作品でした。
 まず驚くのが、その長さ。短編で25Pと言うのは最長の部類にはいるのではないで しょうか。その長さにも関わらず、二転三転するスラプスティックな展開が最後まで衰えず、ギャグ編として期待されうる最高レベルの密度を持つ怪作に仕上がってます。
 本話の魅力を簡単に説明してみましょう。まず登場人物の奇妙な冷静さ。のび太の異 様な姿に全く動じない登場人物の言動が非常にシュールで笑いを誘います。あらすじ を見てもらえればわかりますが、ネームのセンスもまた最高です。 しかし、なにより面白いのは、登場人物のいきいきとした表情です。イタズラをする のび太やジャイアンのうれしそうな表情といったら! これだけで爆笑すること間違い無し。

 残念ながら簡単に見ることが出来ない作品ですが(収録・アニメ化されないのは、フ リークス系の話だからか?)、 もし国会図書館を訪れる機会がありましたら、コロコロコミックVol.2を借り出 されることを、自信をもってお薦め致します。

ということで、ツッコミつきのあらすじをどうぞ!

あらすじ:
 壊れた時計を修理しようと、ねじ回し片手に奮闘するのび太。そこで、ドラえもんは 当てるだけでなんでも分解できる「分かいドライバー」を出し、時計をバラ バラにしてしまいます。しかし、完全にバラバラになってしまった時計をのび太が組 立てられるはずもなし。再組立てをしようと焦るのび太。そこにママが声をかけます 「のびちゃん 手をかして。」「のびちゃんたら!」 ママの剣幕に焦ったドラえもんは「手をかせばもんくないんだ」と、ドライバーで のび太をバラバラ(!)にすると、右手をもっていってしまいます。ヒクヒク動 く右手を見たママは当然失神(唯一まっとうな反応だ)。 バラバラにされたのび太は、なんとか自分で体を組み立てようとしますが、なにぶん 不自由な状態なので、のび太A(図参照)のようになってしまいました。

      ○○
        3 /\∩
   /TVT/\∪
∈⊃ |_|
       \\
       //
       ⊂⊃         のび太A

 再びドライバーで体を組み直そうとしますが、「まてよ…」と思いとどまるのび 太。なんと「これはこれでおもしろいじゃない」(!)と、能天気なセリフ をはいて、そのままで遊びに出かけてしまいます。このときののび太の嬉しそう な表情とセリフ「なんでもいいからバラバラにしたいぞ」 が最高! 色々な ものをバラバラにして楽しむのび太ですが、道ばたでジャイアンを見つけます。左手 の位置に付いている左足で肩を叩いて呼び止め、すかさずドライバーの自慢を始めま す。ドライバーが欲しくなったジャイアンは「よくもおれをけとばしたな!」と、 意外にも知能的なイチャモンをつけて、ドライバーを奪い取ろうと襲い掛か ります!
 一方ドラえもんは、残った右手と腰のパーツでのび太B(図参照)を作り、 のび太Aを手分けして探し始めました。

TVT
 ----
  II
  ⊂∋    のび太B

 ここでのび太Bに向かって、大マジメに話し掛けるドラえもんの構図がまた 実にシュールです。
 さて、のび太とジャイアンですが、もみ合っているうちにドライバーが体に触れて 二人ともバラバラに。道路上にのびジャイの首や胴体がゴロゴロ転がって る大ゴマは大変インパクトがあります。
 機転を利かしたのび太は、先にジャイアンの体パーツにくっつき、のっとってしまい ます。ジャイアンの方はのび太Aの体とドライバーを手に入れたものの、のび太を取 り逃がしてしまいました。しかし、体をのっとられるという非常事態に際して言った セリフが「せめてこれ(分かいドライバー)をつかって、うんといたずらしてや んなきゃ気がすまねえ!」。 なんてポジティブな思考でしょうか。さす がはジャイアンです。
 さて、ジャイアンは自転車や車をバラバラにして遊びますが、当然持ち主はカンカ ン。弁償させられることを怖れたジャイアンは、のび太にドライバーを返して自分の 体を取りかえします。
 自転車と車の持ち主のおっさん二人は、のび太を犯人と思い込み、弁償をせまりま す。間一髪廃ビルに逃げ延びたのび太Aですが、そこにのび太Aを探しに来たのび太B が現れ、事態は急展開をつげます。
 おっさんたちは、「さっきのこどもの、からだののこりじゃないか。」と、 なんだか非常に冷静な分析を行い、なんと「あれを人じちにとろうではあ りませんか。」「べんしょうしなければ、これをかえさないことに…」などと 極悪な作戦を主張し出したのです。のび太大ピンチ!
 しかし逃込んだビルの解体工事を請け負うことで、なんとか弁償を果たしたのでし た。

 その夜、やっと元の体に戻ったのび太。これで懲りたかと思いきや、ドラえもんに首 を差し出して、歯磨きをお願いするという、相変わらず進歩のないところをみせてく れるのでした。

P.S  おまけのジャイアン・スネ夫

 vvvv    Σ
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管理人・おおはたより
 私は「分かいドライバー」の凄さはfuchiさんに教えていただいて初めて知りました。要するにfuchiさんに見せていただいたのですが、一読して大変気に入りました。色々な意味で、衝撃的な話です。
 詳しくはfuchiさんの文をお読みいただきたいのですが、一言で言えば「異常な世界」です。そして、その世界でどのキャラクターも、みな欲望のままにいきいきと動いており、そんな中で一人ボケ役を演じるドラえもんも、良い味を出しています。
 設定の異様さとキャラの反応の異様さの相乗効果で、形容しがたい世界が作りだされていると言えましょう。

作品メモ:「分かいドライバー」単行本未収録(初出:「てれびくん」1977年5月号付録)