ドラちゃんのおへや

私の好きなドラ話

gunsooさん

 58年生まれの私にとってはアニメ版のドラえもんはまさに「一緒に育った」と言っても過言ではなく、てんとう虫コミックスものび太のように毎月のおこづかいを貯めて1巻から地道にこつこつ集めていました。
 成長するにつれて一度は離れてしまったドラえもん、最近になって手元に残っているてんとう虫コミックスを読み返してみてふと、当時一番印象に残っている話があるのを思い出しました。

 タイトルは、「天つき地蔵」。てんとう虫コミックスは36巻の最後に掲載されている作品です。

 あらすじとしては、0点のテストを捨てる場所に困ったのび太はドラえもんに「ないしょごみすてホール」というタイムマシンの一種であるゴミ箱を借ります。静香やジャイアンたちも調子に乗って「こりゃおもしれえや。」とゴミを捨てまくる中、のび太は掃除の中で見つけた「日本昔話」を読み始めてしまいます。そこに書かれていた昔話「天つき地ぞう」を読みふけるのび太。
 一方エプロンをつけたドラえもんは勝手に休憩してしまったのび太に「のび太!どこへいったんだ。」と探すも、大きな冷蔵庫を捨てるときに「みろ。つっかえたじゃないか。」と竹棒で突っつきます。しかしそのはずみでドラえもんはスポッと「ごみすてホール」の中に入ってしまいます。タイムマシンの一種であるこのホールの中は色々な時代へと繋がっている超空間です。ドラえもんは「なんとかしなくちゃ、いつまでも超空間をでられない。」と竹棒でつつきまわします。
 「しまった!出口のほうをあけちゃった。」と飛び出したのは昔の日本。ここでドラえもんのことを「ありがたや、生き仏さま」と崇める与作と知り合ったドラえもんは、元の時代に返ろうと空を竹棒でつつきます。すると静香たちが捨てたゴミが飛び出し、与作は驚きつつも感謝して帰っていきます。一方その様子を見ていた吾作はドラえもんに「与作にはだしてやっても、吾作はだめだとおっしゃるんで!?」と凄みます。無理に出してみたところ生ゴミの山や岩やレンガが降り注ぎます。
 やがて吾作の仕返しで殿さまに捕らえられそうになった与作は母とドラえもんと共に峠を越えると、そこには隣の国の軍勢が。「このままではおらの国がやられてしまう。」とお地蔵様ことドラえもんに頼みます。また天を突いてみるとスネ夫の捨てた新品の自転車が。なんとか軍勢を止めることができた与作の国の殿さまは与作にごほうびを授け、与作はそれでドラえもんにほこらを作ってあげました。ドラえもんはそのほこらを利用して「わ〜い、ホールにとどいたぞ。」と戻ってくることができるのです。
 最後のシーンではのび太が読み終わった昔話の本を「最後にこれをすてさせて。もう読んだから。」と渡すのに対しドラえもんは「そんなもったいないことゆるさないぞ!!」「このえんぴつも消しゴムも、まだまだ使える。ちり紙五枚も重ねてもったいない!ガムは味がなくなるまでかむんだよ。」と言い諭しています。

 この話はのび太が読んでいる「日本昔話」の「天つき地ぞう」とドラえもんの行動している出来事が上手くリンクしているという部分が読みどころです。ところどころにのび太の読んでいる「天つき地ぞう」のページ風のイラストと実際のドラえもんの行動とが交互に描かれています。
 「天つき地ぞう」という昔話自体は恐らく創作されたものでしょうが、実際にあってもおかしくないような昔話にまとめられているのでそれをドラえもんがどう踏襲していくのかが楽しみで、読んでいて小気味良いです。しかしながら"0点のテストで障子を張り替える"や、「みごとな仏像」が"冷蔵庫とプラモ"、「風より速く空をとぶ、仙雲車(せんうんしゃ)」の正体が"スネ夫の自転車"だったというオチはなかなか予想できるものではないと思います。
 また過去の時代のドラえもんが元の世界に戻ることばかりを考えていてほとんど自分のために天を突いていたのが結果的に与作のためになっていくという展開もまた面白く、しまいにはほこらまで作ってもらっておきながらそれを土台にしてホールにたどりついているドラえもんの姿まで描かれています。
 でも竹棒とエプロンをつけたドラえもんが確かにおタヌキ様ならぬお地蔵様に見えるのも面白さのポイントだと思います。ドラえもんの作品の中では23Pというなかなかの長編なのも良かったです。

管理人・おおはたより
 「天つき地蔵」は、gunsooさんが書かれているとおり、昔話の方の「天つき地ぞう」が、いかにも本当にありそうな話になっており、上手く話が作られていると思います。
 「竜宮城の8日間」などのように、実在するおとぎ話を元にした話も面白いのですが、「天つき地ぞう」の話も実在の話と遜色なく出来ており、さらにドラえもんの行動と合わせて、二重に楽しめる作品になっていますね。

作品メモ:「天つき地蔵」TC36巻、FFランド(絶版)44巻、文庫むかし話編に収録。