「ドラえもん迷作劇場」記念すべき第1回紹介作品は、「ボクを止めるのび太」です。この作品を分類すると「タイムマシン物」ということになりますが、ここで紹介するだけあって、ほかのタイムマシン物とはひと味違います。では、まずはあらすじ紹介からです。
「ボクのバカ!バカ!」と、自分の頭をたたくのび太。おどろいたドラえもんがわけを聞くと、思いがけずおじさんから千円もらって貯金が千三百円にたっし、かねての夢のどっちかをはたそうと思って、プラモとカップメン10個のうち、カップメン10個をいっぺんに食べるほうをえらんだのだという。
「バカだなあ」「きみはそういう軽はずみなやつさ」と、あきれるドラえもんだが、のび太は笑って舌を出し、「ぼくがそれほどバカだと思ってるの」「ちゃあんと考えてあるんだ 失敗したらなんべんでもやりなおせるんだ ぼくはね」「タイムマシンがあるから」といい、一時間前の自分にプラモを買わせようと、机の引き出しに向かう。
そこで、ドラえもんはあわてて「みんながてんでに都合よく過去を変えようとしたらどうなる!? 歴史がめちゃくちゃにこんがらがっちゃうぞ!」と、止めようとするが、のび太(以下「のび太A」と表す)は「大げさだなあ」と、相手にしない。
一時間前についたのび太Aとドラえもん。のび太Aは、一時間前ののび太(以下「のび太B」と表す)を説得し、プラモを買うように仕向けるが、のび太Aが帰ってきた現在ののび太の部屋には、依然としてカップメン10個があり、いつまで待ってもプラモは現れない。
「一時間前のぼくがプラモを買えばここにあるのはプラモであるべきなんだ」と言い、のび太Aはもういちど一時間前に向かうが、そこには、のび太Aよりさらに一時間後ののび太(以下「のび太C」と表す」)がやってきて、「プラモはめちゃくちゃ ぼくみたいなぶきっちょな人間にはむずかしすぎるんだ」と、再びカップメンに変更するためにやってきていたのだった。
のび太Aとのび太Cは言い争いになり、とうとう空き地でけんかを始めるが、その途中に「きみたち〜 早くやめた方がいいよ〜」と、ぼろぼろになったのび太三人がやってくる。けんかの後ののび太A、B、Cの姿だったのだ。
けんかをやめたのび太A、B、Cはドラえもんに「こんがらがっちゃってだれが何時間前に帰るのかわからなくなっちゃったんだ なにもなかったことにして振り出しにもどしてよ」とたのむが、「そりゃ無理だ これだけもつれると完全に元通りにはもどせないね」と言われてしまう。それでも何とかそれぞれ違う時間に戻るのび太たちであった。
最後は、つまらなさそうな顔をしたのび太が「カップメンのプラモなんて作っててもちっともおもしろくない」とつぶやくシーンで終わる。
(以上、セリフはすべて「ボクを止めるのび太」本編より引用)
この作品、上のあらすじでわかっていただけたかと思いますが、「ドラえもん」の中でタイムマシンをあつかったほかの作品とは決定的に違うところがあります。それは、「話に完全に収拾がつかなくなっている」点です。
それでは、具体的にどのように収拾がつかなくなっているか、分析してみます。
上ではこの作品を「タイムマシン物」だと紹介しましたが、正確に言えば、「タイムマシン+パラレルワールド物」にあたるかとおもいます。つまり、のび太Aが過去に行った時点で、本来の系列とは違う歴史が生まれてしまっているのです。
のび太Aは、誰にも干渉されることなくカップメンを買っていますが、のび太Bは、のび太AとCから意見されて決めかねていましたし、のび太Cは、カップメンではなくプラモを買って作った、と三人ののび太はそれぞれ違う歴史の流れにいます。
それでは、違う歴史にそれぞれ存在するはずののび太たち三人が、なぜ同じ世界に同時に存在できるのかが疑問になってきますが、そもそもこの歴史の枝別れの原因を作ったのは最初に過去に干渉したのび太Aです。ですから、のび太Aが過去へやってこれるのは問題ないように思えます。では、のび太Cがのび太Aと同じ過去にやってくることができたのは…。
このへんで頭がこんがらがってだめになります。歴史の流れを図に描いて表せば少しは分かりやすくなるでしょうが、完全に表すのはおそらく不可能でしょう。いずれ挑戦してみたいとは思っていますが。
これで、この作品が、「タイムマシン+パラレルワールド物」であり、かつ非常に分析が難しい作品であることが分かっていただけたかと思います。
「ドラえもん」の他のタイムマシン物の作品を見てみると、「ドラえもんだらけ」(てんとう虫コミックス5巻)や、「タイムマシンで犯人を」(てんとう虫コミックス15巻)などの作品では、「現在」のドラえもんやのび太が過去や未来へ行ったことで起きる状況は、はじめから変えられなかったものとして話がまとめられていますし、「無事故でけがをした話」(てんとう虫コミックス22巻)では、過去で行った行為のせいで、現在が変更されてしまうことを描いていました。
つまり、これらの作品では、「タイムマシンを使った結果」が、きちんと作品内で示されており、話として完結しています。それにくらべて、この「ボクを止めるのび太」では「どう収拾を付けるのかなあ」と思わせておいて、「完全に元通りには戻せない」「カップメンのプラモ」で終わらせてしまっています。そこが、他の作品にない珍しいところです。
これは「素晴らしい」ことだと思います。今までさんざんゴチャゴチャと細かいことを言っておきながら何ですが、私は「こういう話があっても一向に構わない。それどころか、非常に貴重な作品だ」と思っています。
これは、後半の混乱ぶりを積極的に楽しむべき作品だと思います。「どうやってカップメンのプラモを作る世界が出現したんだ」とか、「結局、どののび太がどの時間へ帰ったんだ」など、疑問は探せばいくらでも出てきます。出てきますが、答えは出ません。どうせ考えてもムダなら、あまり考え込まずに素直に楽しんだほうがとくです。
とにかく、ドラえもんがいつも言っている「タイムマシンで歴史をいじると、たいへんなことになる」という言葉を、もっとも良く表している作品であることは確かです。「大変」なわりにはスケールが小さいような気もしますが…。