諸般の事情により、この「ドラえもん迷作劇場」は、この第3回でひとまずお休みにさせていただきます。
そこで、お休み前に強烈な話を一つご紹介しておきます。それは「ドラえもんの歌」という作品です。これは、ジャイアンが初めてリサイタルを開いた記念碑的(?)作品なのですが、それよりもこの話の見どころは、完全にイッてしまっているドラえもんです。ドラえもんが狂う話は数あれど、これほど人様に迷惑をかけたことはほかにはないでしょう。
ジャイアンがのび太の家にやってきて、「そろそろ始めるからいらっしゃいよう」と言うが、のび太は居留守を使おうとする。ジャイアンは、自分の独唱会に誘いに来たのだ。しかし、ママは「い留守なんか使っちゃいけません」と、のび太をしかる。
いやがるのび太に対してドラえもんは「歌ぐらい聞いておだててやればいいじゃないか」と言うが、のび太は「おんちの怪獣が化けて出たような声だぞ」「寒気がして気が遠くなるんだ。熱を出してねこんだやつもいる」と、ジャイアンの歌のひどさを力説する。
それを聞いたドラえもんは「そんなにひどいの。じゃ あれ出そう」と、何か道具を出そうとするが、見つからず、仕方なくのび太だけ先にリサイタルに出かけるのだった。その後ドラえもんは「やっと見つかった」と、マイクのような物を持って空き地に駆けつけるが、あまりの歌のひどさに、「音にぶつからない」ように這って進む有様。その途中で何か口に飛びこんだが、気にせずにドラえもん進むのだった。
ドラえもんが持ってきたマイクをジャイアンに渡すと、ジャイアンが歌を歌っても何も聞こえなくなる。ドラえもんが持ってきたのは音の消えるマイクだったのだ。
リサイタル終了後、家へと向かうドラえもんとのび太。突然ドラえもんの様子がおかしくなり、「なんだか歌が歌いたくなった」と言い出す。のび太は「歌いな」といい、ドラえもんは歌い出す。
「ホゲ〜」
ドラえもんは「なんというきれいな声!!」と、自画自賛するが、のび太は「ジャイアンよりひどいぞ。二度と聞かせてくれるな」と、酷評する。それに対してドラえもんは「きみはわからない人だ」といい、ジャイアンに「きみなら芸術がわかるだろう」と、歌を聞いてもらうが、今度は
「ボエ〜」
と、ジャイアンまでが「胸が悪くなった」と言い出す始末。怒ったドラえもんは「芸術のわからんやつは人間じゃない」と、ジャイアンをボコボコにしてしまう。仕方なくジャイアンは「歌手になれる」と言ってごまかした。
「わかる人にはわかるんだなあ。もっとだれかに聞かせたい」と、スネ夫と静香に聞かせるが、やはり酷評される。すると、それを聞いたドラえもんは目つきがおかしくなり、「ウーウー」とうなり出す。様子がおかしいと思い、仕方なく二人もドラえもんの歌をほめる。ドラえもんはとうとう「自信ついた」「今夜独唱会をひらく」と言いだし、家の中で歌の練習を始めるのだった。
「いよいよ運命の夜が来た…」とナレーションが入り、強制的に人を誘う機械(名称不明)を用いて、ドラえもんは次々と独唱会のお客さんを集めるのだった。のび太の姿はなぜか見えない。
「ではみなさまお待ちかねのドラえもんリサイタルをひらきます」と、ドラえもんが宣言し、いよいよ恐怖のリサイタルが始まろうというその時、のび太の机の引き出しからはのび太とセワシが飛び出した。のび太は、ドラえもんを直すためにセワシを22世紀から連れてきたのだ。セワシは光線銃でドラえもんを撃ち、機能を停止させた。ドラえもんの体の中を見ると、マツムシが電子頭脳に入り込んでドラえもんを狂わせていたことがわかった。故障が直り、ドラえもんは恥ずかしがる。
「チンチロリン」と鳴く虫の声を聞いて「いい音楽だねえ」と、うっとりするドラえもん、のび太、セワシの3人だった。
(以上、セリフはすべて「ドラえもんの歌」本編より引用)
この作品は、長い「ドラえもん」の歴史の中で「ジャイアンが初めてリサイタルを開いた」と言う重要な話なのにもかかわらず、てんとう虫コミックスには収録されていません。ドラえもんがのび太の家に来てから初めてのリサイタルだったらしく、のび太がドラえもんにジャイアンの歌のひどさをいちいち説明しているので、てんとう虫コミックス「ドラえもん」の46巻以降が出たとしても、今さら収録できないでしょう。残念なことです。
しかし、この話の見所はジャイアンの歌ではありません(これはこの話だけでなく、どの話でも同じようにオンチなのだから)。この「ドラえもんの歌」最大の見所は、「ドラえもんの狂いぶり」なのです。上下にずれて焦点の合わなくなった目、不気味なうなり声、そしてジャイアンをしのぐほどすごい「ボエ〜」の歌声。とても文章では表現できませんが、すばらしい狂いっぷりです。
一つ疑問として残るのは、ドラえもんがオンチだったのはマツムシのせいなのか、それとも元々オンチで、マツムシはむやみに歌いたがらせただけのか、ということです。後者なら、結局ドラえもんが一番のオンチということになってしまうのですが…。