「ドラえもん」は、非常に知名度の高い作品だが、全ての人が全巻をじっくり読んでいるというわけではないし、まだまだのび太のことを良く知らない人も多いだろう。そこで、第一章ではまず手始めに、いかにものび太らしい、のび太以外の人間にはまず思いつかないであろう発言の数々を紹介する。この章で「のび太」と言う存在の貴重さをわかって頂ければ幸いである。
のび太が怠け者で面倒くさがりであるのはよく知られているが、この言葉は、それを最もよく表していると言えよう。このような本末転倒的な発言は、のび太の最も得意とするところだ。
出来ないことどころか、やれば出来ることすら後回しにして、あくまでつらいことは避けようとする意志がにじみ出ている。その結果、なおさら出来なくなってしまうという悪循環が、今日ののび太を作り上げたのだろう。
やはり、のび太が並の怠け者でないことを伺わせる発言である。ちなみに、これはしずちゃんに登山に誘われたときの返事である。先の「もう少しうまくなってから」に通じるところもあるが、問題なのは、この発言が小学生ののび太ではなく、推定年齢24歳の青年のび太の口から出たものだと言う事だ。
のび太は、いくつになってもやっぱりのび太だと言うことをわからせてくれる、不思議な安心感を得ることの出来る発言であり、ドラえもんも「ちっとも進歩してない」と、コメントしている。
のび太は、自分の名前の「太」を、よく「犬」と間違える。この場面でも彼はそれを心配していたのだが、確かめて見ると実際に書いたのは両方の字の点が付いている、合体漢字であった。それがわかったときの発言である。
この言葉だけで、その時ののび太の心情をさまざまに推し量ることが出来て、大変興味深い。「まあいいだろ」とは「普段は間違えてのび犬と書く事から考えれば、大進歩だ」と言う意味なのか、それとも「まだ間違っているけど、少なくとも太と書く意志があったことはわかってもらえるだろう」と言う妥協なのか。この時の、のび太がポーカーフェイスなだけに、さまざまな想像をかき立てられる。個人的には、のび太の言葉の中で最も好きなものの一つ。
「いざというときにしか使わない」約束で借りた道具を、好き放題に使うための発言。はっきり言って単なる詭弁だが、「悪知恵には頭が回る」と言うのび太の特徴をよく表している。
この場合に限らず、のび太はドラの道具を使う時には、さまざまな応用を利かせて本来以上の性能を発揮することがある。それを悪事に使ってしまうと最後は大抵失敗するのだが、それはさておき、のび太が決して「頭が悪い」訳ではないことはわかってもらえるだろう。
これは番外編。なぜならのび太の口から出た言葉ではなく、彼が手紙として書いた文章だから。ちなみに「ば」と「の」の抹消線は実際には二本線である。
まず目を引くのは、一目でのび太の字だとわかる個性的な(と言うか、単にヘタな)字である。ここでお見せできないのが残念だ。そして、あまりにも簡潔な文章である。しかも、より簡潔にするためなのだろうか、わざわざ「ボールペン」と「シャープペンシル」を混ぜて新しい単語を作り、文を意図的(?)に短くしているあたりが泣かせる。
このようなちょっとした手紙にまで、ここまではっきりと現れるのび太の個性は、我々が思っている以上に強烈なのだろう。
言っている事は「もう少しうまくなってから練習したほうが…」と、似たようなもの。作品の発表時期はこれらの方が古いが、いずれにしてものび太の進歩の無さが伺える発言だ。