ドラちゃんのおへや

私の好きなドラ話

オオミツさん

 私の好きなドラエピソードをばひとつ。
 色々あるけど、大体皆さんが紹介されてるので…

 てんコミ1巻収録の「ご先祖さまがんばれ」をチョイスしたいと思います。

 てんコミでは初めての本格タイムトラベル、そして初めてのご先祖さま 登場編ですが、このエピソードの持つ意味はもっと深いものだと思います。

 要するにこの話は「ドラえもん」の『究極の縮図』です。 タイトルからして、立場を変えてみれば「ドラえもん」そのもの。 そしてやっている事も、セワシをのび太に、のび太をのび作に置き換えたと 考えればズバリ「ドラえもん」のコンセプトを凝縮していると言えます。 ドラえもんの力で不甲斐ないご先祖を奮起させようと考えるけど、結局彼は 大した出世も大成もせず、嬉々として小物としての自分に甘んじている。 ラストシーンでのび太とドラえもんは、イノシシを狩った事で大喜びする のび作を見てひと言「だめな人。」と評します。

 しかし、本当にそうだろうか?本当にのび作は「だめな人」なのだろうか?

 違うと思います。
 近眼でハナタレで臆病で、小動物しか狩れないダメ狩人だった彼は、未来の 子孫とドラえもんが授けてくれた英知(タケコプター・透明マント・スーパー 手ぶくろ)でもって「一人前の狩人」へと成長したのです。
 それは決して小物に甘んじる、という志の低さから来た結果ではないはずです。 スネ丸のように姑息に立ち回って出世する、というのも一つの生き方です。 しかし遠い未来、スネ夫が皆に刀に平伏させている姿は何の実もないただの滑稽 な道化芝居でしかない。
 しょせん、長い歴史から見れば武士としての栄光など一瞬の虚像でしかないわけ です。
 のび太たちは狩人としての人生を変えなかったのび作を不甲斐ないと考えました が、それは見当違いというもの。
 のび作は徹頭徹尾、自分の器というものをわきまえた人物だったのだと思います。 自分がもらった道具は戦乱の世においては天下の覇権をも狙える物であることは のび太が証明済みです。しかしのび作はそんな物は求めなかった。彼は虚像と しての栄光よりも、狩人としての小さな大成を望んだわけです。

 そして、そんな彼を軽蔑するのび太だって結局は同じ事です。
 未来の英知を携えたドラえもんが四六時中傍に居てくれるにもかかわらず、彼は 将来学者になるわけでも大富豪になるわけでもない。
 ただ、悲惨な未来(ジャイ子と結婚とか、会社がつぶれるとか)を変え、小さな 幸せを少しずつ掴んでいく事はできるわけです。少なくとも、胸を張って生きて いける程度には。
 そういう意味では、このエピソードのラストで 「ワーイ、生まれてはじめて、イノシシを取った」と会心の叫びを上げるのび作 は、そのまま未来ののび太そのものだったと言えるのではないでしょうか。

 人の未来なんてそう簡単に都合よく変えられるもんじゃない。だけど、未来から 来たドラえもんはダメ人間の人生をほんの少しステキにしてくれる。

 長い年月をかけて「ドラえもん」という作品が描いたこのメッセージをギュッと 凝縮した「ご先祖さまがんばれ」 傑作の名に恥じない、深い深い作品だと思います。

管理人・おおはたより
 「ご先祖さまがんばれ」におけるのび太→のび作が、そのままセワシ→のび太と同じである点は、気づく人が多いと思いますが、本作において示されたのび作の行く末が、そのままのび太自身の未来を暗示しているという点までは、私は思い至りませんでした。素晴らしい読み込みだと思います。
 のび太の先祖としては、ほかにホラのびことのびろべえ(「ホラ吹き御先祖」)、そして曾祖父ののび吉(「ハリーのしっぽ」)などが登場していますが、いずれも心やさしい人物です。これらの作品も含め野比家のルーツをたどることで、また新たな発見があるかもしれません。

作品メモ:「ご先祖さまがんばれ」TC1巻、FFランド(絶版)2巻、文庫むかし話編に収録。