ドラちゃんのおへや

復元光線

Part2 てんコミとFFランドの比較

 「ドラえもん」の単行本と言えばてんコミが最も有名ですが、その他に中央公論社の「藤子不二雄ランド」(以下「FFランド」)版を忘れるわけにはいきません。こちらも、てんコミと同様に45巻まで出ています。
 両方の単行本に収録されている作品も多いのですが、その内容は完全に同じではなく、やはり一部のセリフは変更されています。そこで、ここではその違いを調べてみました。


Case1 出版社の都合

No.てんコミFFランド
(1)17巻P.34少年サンデーをつけろ28巻P.54F.F.ランドをつけろ
(2)17巻P.91少年サンデー23巻P.105「F.F.ランド」
(3)19巻P.119コロコロコミックの発売日22巻P.115藤子ランドの発売日
(4)19巻P.121コロコロコミックでも22巻P.117藤子ランドでも
(5)27巻P.29てんとう虫コミックス22巻37巻P.31F.FランドVOL.114
(6)29巻P.181コロコロコミック」の十月号か36巻P.43ドラドラコミック」の十月号か
(7)29巻P.181コロコロみたいな一流の雑誌36巻P.43ドラドラみたいな一流の雑誌
(8)35巻P.68てんとう虫コミックスを買える43巻P.144F.F.ランドのコミックスを買える

 「ドラえもん」は元々小学館の雑誌で連載された作品なので、作中に登場する雑誌名は当然小学館のものが多くなります。これを単行本に収録する場合、てんコミは小学館発行なのでそのままで問題ないのですが、FFランドは中央公論社発行なので小学館の雑誌名をそのまま載せるわけにはいかなくなります。
 そんな訳で、FFランドでは雑誌名が変更されていることが多いのです。ここでは、そんな例を集めてみました。ほとんどの場合「FFランド」に置き換えられていますが、なぜか(6)(7)だけは「ドラドラコミック」と言う架空の雑誌名が登場しています。FFランドではセリフの流れが悪くなるせいかも知れません。
 ちなみに、FFランドでも雑誌名が変更されなかった例としては「100年後のフロク」の「小学四年生」があります。さすがに、未来の学習雑誌の付録で遊ぶ話では変えようがなかったのでしょう。

Case2 時代の変化

No.てんコミFFランド
(1)2巻P.51昭和三十九年八月七日10巻P.12710年前の8月7日
(2)8巻P.43天地真理の声で?13巻P.23松田誓子の声で?
(3)9巻P.181976年……19巻P.128一九八五年……
(4)17巻P.34ピンク・レディー100の秘密を28巻P.54おにゃんこ百の秘密を
(5)19巻P.65ピンクレディーを入れろ22巻P.97小泉今日子を入れろ
(6)21巻P.61二一二五年の22巻P.7二一一八年の
(7)45巻P.133松井選手のホームランボールだって!?7巻P.178王選手のホームランボールだって!?
(8)45巻P.133ゆうべ球場へ行ったらさ7巻P.178ゆうべ後楽園へいったらさ

 てんコミとFFランドでは、刊行開始時期に10年のズレがあります(てんコミ1巻は1974年、FFランド1巻は1984年発行)。そうなると、てんコミ刊行時にその時代に合わせたセリフでも、FFランド収録時には、再び時代遅れになる事もあり、その場合再び変更されることになります。ここではそんな例を集めました。
 しかし、今見直すとFFランド版ですら時代遅れになっているあたりに、時の流れの速さを感じます。それを考えると、(2)の「松田誓子」のように架空の人名にした方が無難であると言えましょう。(1)も同様に、特定の時代を避けた結果の変更と思われます。
 なお、(7)(8)の「トロリン」のみ、FFランドの方が収録が早かったので、てんコミのセリフの方が時代が新しくなっています。

Case3 その他の細かい違い

No.てんコミFFランド
(1)2巻P.10クラスでいちばんわすれんぼのあんたが?7巻P.91クラスで一番忘れんぼのあなたが?
(2)2巻P.62やっ、そっくり!14巻P.146やーっそっくり!
(3)3巻P.70スーパーダンごっこに使うふろしきだ7巻P.80スーパーマンごっこに使うふろしきだ
(4)4巻P.28うちのとうさんは、スーパーダンなんだ。4巻P.91うちのとうさんはスーパーマンなんだ
(5)6巻P.82からだだけでかくて8巻P.48はずかしくないのか からだだけでかくて
(6)9巻P.14ね!ね!のびちゃん12巻P.49ね!ね!のび太さん
(7)13巻P.97いっしゅのシミュレーター15巻P.71一種のシュミレーター
(8)13巻P.97シミュ……?15巻P.71シュミ……?
(9)16巻P.3412階の68号室19巻P.14013階の68号室
(10)18巻P.104あぶらのにおい20巻P.19燃料のにおい
(11)26巻P.46くみあわせて…。33巻P.88組み合わせて……作り出し
(12)31巻P.36それじゃ意味ない39巻P.113(対応する吹き出しが空白)
(13)32巻P.49プラ魂(こん)40巻P.137プラ魂(だましい)
(14)32巻P.56のび太のためにむりして40巻P.144のび太のため無理して
(15)37巻P.111ハイ、気をつけてます45巻P.155ハイ 気をつけます

 Case1、2以外にも、色々な理由でセリフが変更されているのですが、いちいち分けていると非常に細かくなってしまうので、「その他」としてまとめました。以下、それぞれ理由を説明します。
 (1)(6)はしずちゃんの性格設定の変更によるものと思われます。ただ、(6)はしずちゃんがアイドルに熱狂している場面ですから、元のままでよかったと思います。
 (3)(4)は、「スーパーマン」を普通名詞として扱うか、固有名詞として扱うかによる違いでしょう。後者として扱ったてんコミでは、権利問題に配慮して「スーパーダン」にしたと思われます。
 (5)(11)ははっきりしませんが、新書判(てんコミ)とB6判(FFランド)という判型の違いで、FFランドの方が吹き出しが大きくなり、てんコミでは収まらなかったセリフを補完出来たのではないでしょうか。
 (7)(8)(9)(12)(13)あたりは、単純なミスでしょう。それでも、(12)のように吹き出しが丸々空白だと目立ちます。(13)は説明が要りますが、「プラ魂」とは「プラコン大作」(たかや健二)と言う漫画に出てくる言葉で、「プラコン」と読むのが正しいです。
 (2)(10)(14)(15)などは実に微妙な違いです。正直言って、なぜ変えられているのかよくわかりません。

Extra Case 絵の修正例

No.てんコミFFランド
(1)5巻P.11010巻P.62のび太(郎)のパパの顔を訂正
(2)6巻P.13015巻P.155カバ田の服のエリの形を変更
(3)8巻P.8020巻P.113ジャイアン(カバ田)のママの髪型を訂正
(4)19巻P.7631巻P.102のび太の髪型を訂正

 ここでも、絵が修正された例についても紹介しておきます。いずれも、内容に大きく関わるような変更ではありません。なお、描き足しを含むものはややこしくなるので除きました。
 (1)(2)(3)は「ドラミちゃん」関係です。(1)は、てんコミではのび太郎のパパの顔でしたが、FFランドでのび太のパパに直されました(ただし、なぜか微妙に違う顔に見える)。(2)は、顔はカバ田のまま残っているのですが、服にエリを付けることで、この話に出てくるもう一人の「カバ田似の少年」に変えられています。(3)は、てんコミではジャイアン(元・カバ田)のママの顔がジャイアンそのものだったのですが、FFランドでは頭におだんごが付けられ、何とかママに見えるようになりました。これらの修正はFFランドのみで、てんコミには反映されていません。
 (4)は「ドラミちゃん」とは関係なく、のび太の前髪に切れ目が入っていたのが、塗りつぶされて普通ののび太の髪型に直されたものです。


 てんコミとFFランドの比較は以上で終わりです。これは、以前からやりたかった企画でした。そして、これは限りない泥沼への第一歩に過ぎません。なぜなら、ドラの単行本は他にもたくさんの種類があり、それぞれセリフの変更が既にいくつか見つかっています。これら単行本の種類ごとのセリフの違いを把握した上で、さらに版による違いを調べ始めると、本当にきりがないでしょう。たとえば、今回セリフの比較に使用したFFランドは全て初版ですが、これも再版でセリフが変更されている可能性があります。現時点では、どこまで踏み込んで調べるかは全く決めていませんが、出来るかぎりの調査はしたいと思います。