ドラちゃんのおへや

四次元倉庫のすみに…

 『ドラえもん』の単行本と言えば、一番有名なのは何と言っても「てんとう虫コミックス」(小学館発行。以下「てんコミ」)でしょう。その、てんコミを読んでいて、何だか釈然としない形で登場している道具がいくつかあることにお気づきでしょうか。初登場の道具なのにドラえもんはろくに説明をせず、一コマや二コマで出番が終わってしまう。気を付けて見てみると、そんな道具は結構あります。
 たとえば、27巻「ジャイアンよい子だねんねしな」に出てきた「ゴマロック」や、4巻「未来世界の怪人」に出てきた「くすぐりノミ」など。これらの道具は何故このようなぞんざいな扱いを受けているのか、一体どういう道具なのか、疑問に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 種をあかせば、実はこれらの道具は「本当は初登場ではなかった」のです。初登場作品がてんコミ未収録になっているだけで、既に以前に登場していたというわけです。当然、初登場時には道具の紹介もされていたのですが、その話がてんコミに収録されなかったために、結果的に謎の道具になってしまいました。
 そこで、この「四次元倉庫のすみに…」では、このような不運な道具たちについて、どんな道具でどういう使われ方をされたのかなどをくわしく紹介したいと思います。
 また、「グルメテーブルかけ」「桃太郎印のきびだんご」などは大長編(映画)などにも登場する結構有名な道具ですが、やはり初登場作品がてんコミに未収録であり、初登場時にはてんコミを読んだだけではわからない機能などが明らかにされていますので、それらも合わせて紹介しました。

(追記)
 このコーナーの開設後、『ドラえもん』の新単行本がいくつか刊行されて、ここで扱った道具の登場する話も、何話か収録されました。それらの話に関しては、該当単行本を読めば済むようになったのですが、せっかく一度公開したので、補足として収録単行本を示すにとどめ、本コーナー自体は元のままとしておきます。

目 次
アットグングンウルトラストップウオッチ
くすぐりノミグルメテーブルかけ
ゴマロック自信ヘルメット
ジャック豆そくせきおとしあな
電車ごっこ動物語ヘッドホン
ふりだしにもどるペタリぐつとペタリてぶくろ
防水折り紙ミニドラえもん
ももたろう印きびだんご山びこ山
ゆうどう足あとスタンプゆめグラス
よびつけブザーわりこみビデオ

-特別編 「ドラえもん百科」の全て-




このページの見方
◆道具は、五十音順に紹介
◆TC=てんとう虫コミックス、FF=藤子不二雄ランド、CC=カラーコミックスの略
◆「小○」=小学館の学年別学習雑誌「小学○年生」の略

アットグングン TC38巻「時計はタマゴからかえる」

知られていること
 成長促進剤? 普通の生物には効くのか?

登場場面とその状況
 「タマゴ産ませ燈」を使ってできたタマゴから生まれた、フクロウ型時計の子供を早く育てるために食べさせた。

→初登場「虫の声を聞こう」(FF6巻、「小五」1974年9月号)に見る姿

 「時計はタマゴからかえる」だけを見ると、アットグングンはおもちゃの子供専用のえさであるかのようだが、そうではない。もともと生き物を短い時間でぐんぐん大きくするためのえさで、てんコミでの使い方が変則的なのだと言える。
 しかも、その効き方が尋常ではない。「虫の声を聞こう」では、優しいおじいさんが鳴き声を聞いて欲しいと空き地に放した虫を心ない者たちが捕っていってしまうため、それに対抗するためにドラえもんが虫たちにアットグングンを掛けまくった結果、人間よりも大きいサイズに成長した。人間の方が檻の中に入って虫の鳴き声を聞く羽目になったのだ。
 それにしても、巨大化した虫たちは一生このままなのか、気になるところだ。「成長」して大きくなった結果なので、普通サイズに戻すのは不可能のような気がする。

補足
 その後、「虫の声を聞こう」は、てんコミ「ドラえもん プラス」1巻に収録された。

ウルトラストップウオッチ TC39巻「ずらしんぼ」ほか

知られていること
 時間を止める事ができる。タンマウオッチと同じ?

登場場面とその状況
 スネ夫に知られずにマンガの本の内容をずらし取るために時間を止めた。

→初登場「ウルトラストップウオッチ」(FF9巻、「小四」1973年9月号)に見る姿

 てんとう虫コミックスではタンマウオッチの方が早く登場する(24巻)ため、タンマウオッチの単なるバリエーションと思われがちだが、実はウルトラストップウオッチの方が登場は早い。
 それでは二つの道具はどう違うのか。初登場話を読んでみたところ、ウルトラストップウオッチでは時間停止の影響を回避する「場」のようなものがが存在するらしい。タンマウオッチの場合は使用者とそれに触れるもの以外の全ての時間が止まるため、ドラえもんが使う時にのび太に触りながらボタンを押している。これに対してウルトラストップウオッチでは、ドラえもんは机に座るのび太から少し離れた位置でボタンを押したが、のび太には時間停止の影響は及んでいない。恐らく、ウルトラストップウオッチの周りのある程度の空間は、時間停止の影響を受けないようになっていると思われる。また、ウルトラストップウオッチでは、止まっている人間にさわると、その人も時間停止から抜け出すことができる(大長編「のび太の日本誕生」より)。
 時間停止機能自体には差が無く、どちらの方が便利かという判断は難しいが、複数の人間で使う場合には、タンマウオッチは、いちいち全員がくっついて使わなければいけないので、ウルトラストップウオッチの方がいいだろう。

くすぐりノミ TC4巻「未来世界の怪人」

知られていること
 振りかけると激しく笑い出す粉?

登場場面とその状況
 ジャイアンが、拾った不思議なカバン(宇宙ロケット強盗犯の落とし物)から取り出して、追いかけてくるドラえもんに振りかけたところ、ドラえもんは「くすぐりノミだ」と言って大笑いした。

→初登場「くすぐりノミ」(FF2/CC3巻、「小二」1970年9月号)に見る姿

 ジャイアンが使ったところだけを見ると粉に見えるが、「くすぐりノミ」は実はれっきとしたロボットなのだ。名前の通り、粉のように見えた一つ一つがノミのロボットなのである。
 これは、たかった人を笑わせるノミロボットで、一匹だけでも十分大笑いさせる効果を持っている。その力は、こわい顔のじいさんが笑いすぎで笑い顔に変わってしまったり、犬までが「ワンハハハハ」と笑うほどである。あれだけ大量のノミを振りかけられたドラえもんが変になってしまわないか、影響が懸念される。

補足
 その後、「くすぐりノミ」は「ドラえもん カラー作品集」5巻に収録された。
 なお、くすぐりノミが登場する話は、もう一つある。FF9巻の「くすぐりノミ」がそれだ。この話ではくすぐりノミの能力として、人にたかった状態でノミに飛び跳ねさせると、たかられた人が大きく飛び跳ねるようになるという事も明らかにされている。

グルメテーブルかけ TC31巻「かべ景色きりかえ機ほか

知られていること
 名前を言うだけで食べ物が出てくる便利なテーブルかけ

登場場面とその状況
 てんコミ初登場は31巻「かべ景色きりかえ機」。お花見用の食べ物を出すために使われた。

→初登場「グルメテーブルかけ」(FF30巻、「小二」1981年3月号)に見る姿

 結構有名な道具だが、初登場作はてんコミ未収録。しかし、初登場話で特に知られざる機能などがわかるわけではない。
 特筆すべきは、のび太達のリクエストした庶民的な料理だけではなく、スネ夫が言った「エスカルゴブルゴーニュ風」「トリュフのスープ」などの料理もちゃんと出している点だろう。ドラえもんが「出ない料理はないんだ」と豪語するだけのことはある。
 個人的に原理が気になる道具の一つだが、フランス料理を出しても、あとで馬鹿高い請求が来るというようなオチではなかったので、未来のレストランから運んでいるわけではなさそうだ。テーブルかけの中で合成している可能性も考えられる。平面のように見える中に食品合成工場を設置する事は、かべ紙ハウスと同じ要領で可能だろう。

補足
 その後、「グルメテーブルかけ」は、てんコミ「ドラえもん プラス」1巻に収録された。
 また、「グルメテーブルかけ」の類似道具に、22世紀のメルヘンランドでドラえもんがレンタルした「北風のくれたテーブルかけ」がある。ドラえもんは「なんでもだせる」と言っており、デザインと名前が違うだけで機能は同じなのだろう(39巻「メルヘンランド入場券)。

ゴマロック TC27巻「ジャイアンよい子だねんねしな」

知られていること
 よくわからないが、鍵を掛ける道具らしい

登場場面とその状況
 のび太がジャイアンとスネ夫のクローンをかべ紙ハウスの中に閉じこめるために使用。わずか一コマのみの登場だった。

→初登場「ゴマロック」(FF21巻、「小三」1978年月3号)に見る姿

 一見単なる鍵に見えて大したことがなさそうな道具だが、その性能はかなりのものである。「ゴマロック」はどこにでも音声認識式の鍵を掛けることができる道具で、「とじよゴマ」と言って鍵を掛けた扉は、その人の「ひらけゴマ」でしか開かなくなる。
 扉だけでなく、空き地の土管の穴に板を置いただけでも、板にゴマロックを使えばジャイアンでもあけることができなくなる。てんコミで使われたように、かべ紙ハウスにジャイアンのクローンを閉じこめるのには打ってつけの道具だったと言える。

自信ヘルメット TC24巻「ションボリ、ドラえもん」

知られていること
 かぶると悪口が自分に都合よく聞こえる

登場場面とその状況
 体育の時間に、長距離走(推定)で周回遅れになったのび太を励ますために、ドラミがのび太にかぶせた。

→初登場「自信ヘルメット」(FF6/CC2巻、「小三」1973年月6号)に見る姿

 初登場話では、ドラミではなくドラえもんがポケットから出した。ひがみっぽいのび太に自信を持たせるために使ったのだが、ダイヤルを「強」に合わせてしまったため、悪口だけでなくそれ以外のどんな言葉でもほめ言葉に聞こえるようになってしまった。そのせいでのび太は自分が賞賛されていると思いっきり勘違いし、源家に居座って迷惑を掛けた。
 ドラミが使った場合には、そうはならなかったのは、適度にダイヤルを調節したためだろう。このあたりで、ドラえもんとドラミの差が出たと言える。

補足
 その後、「自信ヘルメット」は「ドラえもん カラー作品集」5巻に収録された。

ジャック豆 TC21巻「雪がなくてもスキーはできる」

知られていること
 蒔いたらすぐにのびて大きく生長する豆?

登場場面とその状況
 「いつでもスキー帽」の力で空の上にいるのび太としずちゃんに近づくために、ドラえもんをだましてジャイアンとスネ夫が借りた。

→初登場ではないが主演作「ジャックまめ」(「小一」1985年11月号)に見る姿

 「ジャックまめ」は「雪がなくてもスキーはできる」よりも後に描かれた作品だが、確認できる中では唯一ジャック豆が主役の道具である。
 「確認できる限り」というのは、ジャック豆は11巻末「ドラえもん大事典」の道具紹介コーナーでも登場しており、まだ確認していないが「雪がなくても…」以前に登場した作品が存在する可能性があるためである。
 さて、ジャック豆の主演作である「ジャックまめ」では、「伸びきった後に「もどれ」と命令すると元の豆に戻る」「伸びるときに方角を言えば、その方角に伸びてゆく」など、ジャック豆は色々と命令を聞くことがわかる。と言うことはジャック豆は単なる成長のよい豆ではなく、「つる草のサイボーグ」正義ロープと同様、意志を持つ「豆のサイボーグ」であると考えられる。

補足
 その後、「ジャック豆」は「ドラえもんカラー作品集」1巻に収録された。
 また、類似の道具としては「高層マンション脱出大作戦」(「小三」1990年1月号、未収録)に登場する「ジャックの豆の木下半分」がある。これは、その名の通り豆から根が下に向かって猛烈に伸びていく道具で、マンションの12階から下に降りるために使われた。

そくせきおとしあな TC23巻「ぼくよりダメなやつがきた」

知られていること
 輪っかを地面に置くと落とし穴になる

登場場面とその状況
 「穴があったら入りたい」のび太のためにドラが用意

→初登場(単行本未収録、「小一」1971年4月号)に見る姿

 最初に断っておくが、「ぼくよりダメな〜」最後のコマに登場したこの道具が間違いなく「そくせきおとしあな」であるかと聞かれると、正直言って自信がない。ドラは道具名を言っていないし、「通りぬけフープ」を地面に置いた場合でも同様の現象が起こるからだ(TC9巻「通りぬけフープ」)。しかし、これが「通りぬけフープ」だとするとこのコーナーのネタにならないので、「そくせきおとしあな」であるとして話を進めさせていただく。
 初登場時の使われ方を見えると、この道具は初めから輪になっているのではなく、元々はひも状のものを結んで使うと言う事がわかる。だから、初登場時は輪にちゃんと結び目がある。一方、「ぼくよりダメな〜」の方を見ると、結び目は見当たらない。と、言う事は、やはりこちらは通りぬけフープなのだろうか。
 いや、そうではない。大長編「のび太と鉄人兵団」では、ドラがちゃんと「即席落し穴」と道具名を言って出しているが、こちらには結び目はない。だから、「そくせきおとしあな」には、ひも状のものと初めから輪になったものと二種類存在すると考えられる。

電車ごっこ TC7巻「行かない旅行の記念写真」

知られていること
 プレート状で、行き先を書いてドアに付けるとどこへでもすぐに行ける

登場場面とその状況
 写真を撮りに世界一周旅行に出るために使おうとしたが、狂っていた。

→初登場「ふしぎな海水浴」(FF1巻、「小二」1970年8月号)に見る姿

 この「電車ごっこ」について、「行かない旅行の記念写真」中でのび太が「いっぺん海へいったっけ」と言っている。「ふしぎな海水浴」は、その「海へ行った」時のエピソードなのである。
 この時はまだ狂っていなかったらしく、野比家のフスマはちゃんと海とつながった(ただし、「うみ」と書いたところ海中につながってしまい、野比家は水浸しになった。その後「かいがん」と書いて、ようやく無事に海水浴に行くことが出来た)。
 さて、狂っていようがいまいが、この「電車ごっこ」の登場するエピソードを読むと、「どこでもドア」はどうしたのかと思われることだろう。これに関しては、初期作品なので作中での四次元的移動手段が固まっていなかったと考えるしかない。

補足
 その後、「ふしぎな海水浴」は「ドラえもん カラー作品集」5巻に収録されたが、道具名が「どこでもキップ」となっていた。この名前の出典は、今のところ不明。
 「どこでもドア」登場以前の四次元的移動道具としては、他に「まほうの地図」(FF6巻、「小二」1971年4月号)などがある。これは、一見ただの地図だが、行きたいところに印を付けてくるまるとその場所へ行けるという道具。なぜか他の惑星の地図まであり、そのせいでスネ夫はおそらく『ドラえもん』史上初の宇宙旅行を成し遂げた。

動物語ヘッドホン TC22巻「のら犬「イチ」の国」

知られていること
 動物の言葉を聞くことが出来る

登場場面とその状況
 「イチ」の言葉を聞くために使用

→初登場「どうぶつごヘッドホン」(単行本未収録、「小一」1975年3月号)に見る姿

 初登場時も、使い方は「のら犬「イチ」の国」と変わらない。ヘッドホンを耳に当てると動物の言葉がわかるようになる。この時は、ネコの「たま」の言葉を聞くために使われている。また、初登場ではヘッドホンのデザインが若干違う。こちらは耳に当てるスピーカー部分に左右それぞれアンテナが付いているが、てんコミではなくなっている。道具のコンパクト化が進んで、アンテナが内蔵されるようになったのだろう。

ふりだしにもどる TC23巻「ハッピーバースデー・ジャイアンほか

知られていること
 サイコロ状で、振ると過ぎ去った時間を元に戻すことが出きる

登場場面とその状況
 誕生日を心から祝って欲しいジャイアン(「ハッピーバースデー・ジャイアン」)、元日をやり直したいのび太(TC35巻「ぐ〜たらお正月セット」)のために、ドラえもんが時間を戻してあげた

→初登場「ふしぎなさいころフリダシニモドル」(単行本未収録、「小三」1973年1月号)に見る姿

 この道具は、てんコミで登場した2作品を見る限り、振って転がすだけで時間を思いのままに戻すことの出きる大変便利な道具に見える。てんコミの両作品とも、夜になってからその日の朝まで時間を戻しているのだから。
 しかし、初登場時は「1が出たら1分、2なら2分。出た目の数だけ時間がぎゃくもどりする」とドラが言っており、事実その通り分単位の細かい時間でないと戻す事が出来ないようだ。このように、道具の効力が全く違うために初登場作品が未収録となってしまったのだろう。何しろ、登場時の機能のままで半日分時間を戻そうとすると、仮に6の目が出続けたとしても、12時間=720分だから120回は振らなければならないのだ。
 そして、もう一つ気になるのが道具のサイズ。初出と「ハッピーバースデー〜」はほぼ同じ大きさだが、「ぐ〜たら〜」に登場したものはやけに大きい。もしてんコミ登場の2話とも大きいのならば、初登場版より機能が上の新型と判断することもできるのだが。

補足
 この道具が登場した話はもう1話存在する。「はるかぜうちわ」(単行本未収録、「小一」1978年3月号)で、こちらは、大きさは初登場や「ハッピーバースデー〜」と同じ手のひらサイズ。しかし、ドラが「これをころがすと、もとどおりになるんだ」と説明しており、機能はてんコミ版とほぼ同じ。

ぺたり手ぶくろとくつ 大長編16巻「のび太と銀河超特急」

知られていること
 ペタリとくっついてどこでものぼれる

登場場面とその状況
 銀河超特急の屋根を移動するために使用
 「タマゴ産ませ燈」を使ってできたタマゴから生まれた、フクロウ型時計の子供を早く育てるために食べさせた。

→初登場「ペタリぐつとペタリ手ぶくろ」(単行本未収録、「小二」1970年4月号)に見る姿

 初登場時も、使われ方は同じ。怪しい屋敷に忍び込むために使われた。この話では、この道具は単に屋敷に忍び込むためだけのものにすぎず、序盤に少し登場するのみなので、これ以上書くことはない。
 それよりも、この道具が25年もの時を経て再登場した事の方が驚異的だ。本コーナーで取り上げている道具の中でも、再登場までのブランクが最も長い。前述のように、この道具は初登場時ですらチョイ役だったのだ。それにも関わらず、ちゃんと覚えていて再登場させた藤本先生の記憶力には驚嘆せざるを得ない。

防水折り紙 TC19巻「海に入らず海底を散歩する方法」

知られていること
 その名の通り、水にぬれても破れたりしない紙

登場場面とその状況
 壊れたボートの代わりにスネ夫達を乗せるために、折り紙の船を造った

→初登場「防水折り紙」(FF15巻、「小一」1977年8月号)に見る姿

 実は、「海に入らず海底を散歩する方法」では「防水折り紙」という名前は出てきていない。しかし、道具の性質・形状から判断して、間違いなく同じ道具だろう。
 初登場時も、「海に入らず海底を散歩する方法」と同様に、ドラえもんとのび太が湖でヨット遊びをするために、この紙でヨットを作っている。どうやら、この道具には、このような用途しかないらしい。あくまで、遊びのための道具と言う事だろう。

補足
 「防水折り紙」が、「海に入らず海底を散歩する方法」に登場していた件については、掲示板で、はるおさんよりご指摘いただきました。ありがとうございます。

ミニドラえもん TC41巻「ぼくミニドラえもんほか

知られていること
 全てがミニサイズのドラえもん。出す道具も小さい。

登場場面とその状況
 ドラえもんの代理として、のび太達の野鳥観察の手助けをした。

→初登場「はりええほんドラえもん」(「幼稚園」1973年3月号)に見る姿

 最近は、ドラえもんの弟分的存在としてテレビアニメで出番の多いミニドラ。1998年にはコロコロコミックでミニドラが主人公の「ぼく!ミニドラえもん」(絵・萩原伸一)も連載された。
 ミニドラのデビュー作は、一般にはてんコミ41巻「ぼくミニドラえもん」(初出「小六」1987年4月号)だと思われているが、実はそれよりもはるか昔に登場している。それが「はりええほんドラえもん」である。本作品は、カラーのコマを切り取って指定された箇所に貼り込むという珍しい形式になっている。
 ここでは、ミニドラはドラのポケットからぞろぞろと出てきており、数えたところ一コマに14人もいた。特にそれぞれに個性などは見られず、一くくりでドラの子分的存在として描かれている。また、切り取って貼り込むカラーのコマで登場しているので、体の色が青だとわかる。ミニドラの色が赤になったのは、1989年の映画「ドラミちゃん ミニドラSOS!!」からで、本家ドラとの差別化のためだと思われる。その後原作でも、てんコミ41巻カバー絵や大長編「のび太とブリキの迷宮」では赤になっている。
 一回きりでミニドラは忘れ去られたらしく、その後「ぼくミニドラえもん」で再デビューするまで14年もかかった。

補足
 映画「2112年ドラえもん誕生」やテレビアニメ版「ミニドラ大脱走」では、赤いミニドラ以外にも黄色や緑など色違いのミニドラが多数登場しているが、原作ではてんコミの「ぼくミニドラえもん」以降はミニドラは一人しかいない設定のようなので、今回はこれらのアニメオリジナル色ミニドラについては対象外とした。

ももたろう印きびだんご TC16巻「宇宙ターザンほか

知られていること
 動物に食べさせると、なんでも言うことを聞くようになる。

登場場面とその状況
 「宇宙ターザン」撮影用の恐竜をおとなしくさせるために使用。

→初登場「ももたろう印のきびだんご」(FF7/CC4巻、「小二」1975年4月号)に見る姿

 この道具は、大長編「のび太の恐竜」で重要な役割を果たして一気に有名になった。その後も「ツバメののび太」「野生ペット小屋」などに登場し、今では多くの人が知っているだろう。そんな有名な道具だが、一つ誤解されている事がある。それは「人間には効かない」と思われているらしいことである。
 そんなことはなく、これは人間に食べさせてもちゃんと言うことを聞くようになるし、そもそも初登場作では人間にしか食べさせていない。その後「動物くんれん屋」(「小四」1978年8月号、FF27/CC1巻)でも、のび太が「人間も動物の一種だから……」と、凶暴なおばさんに食べさせている。
 では、なぜ「人間には効かない」と言う誤解が生まれたのか考えてみたが、人間に使っている話がてんコミ未収録なのに加え「宇宙ターザン」でのドラの「人間が食べたってかまわないの!」と言う言葉を「人間には効かない」と言う意味に解釈してしまったためだろう。実際には人間に効くのだから、あの言葉は「人間が食べても、何か命令されない限り何も起きない」と解釈すべきである。
 ところで「動物くんれん屋」によると当初このだんごの効き目は30分だった。しかし「のび太の恐竜」で最後に登場した恐竜は、どう考えても食べてから一晩以上たっているのにだんごの効き目は続いていた。おそらく30分しかもたないのでは色々と不便なので、改良されたのだろう。

山びこ山 TC35巻「ま夜中に山びこ山が!」

知られていること
 吹き込んだ音を、指定した時間に返す

登場場面とその状況
 のび太に勉強させるために、ドラえもんがメッセージを吹き込んでおいた。

→初登場「山びこ山」(FF7巻、「小三」1974年4月号)に見る姿

 山びこ山は、てんコミ「ま夜中に山びこ山が!」で堂々と主役を張っている。それなのにここで取り上げるのは、この道具の初登場話がてんコミ未収録なのに加え、初登場とてんコミとで機能が全く異なるという珍しいケースだからである。
 てんコミでの山びこ山は、あらかじめ吹き込んだ音を決まった時間に山びことして返すだけなので、現代科学で十分実現可能な道具だが、初登場の「山びこ山」では、あらかじめ吹き込んだ音ではなくても、過去の音を自由に聞くことができるという便利な道具で、言わば、みらいラジオと正反対の機能の道具だった(「みらいラジオ」は、「ドラえもん プラス」1巻に収録)。また、外観では初登場時は前面にボタンが二つだったのが、てんコミでは三つに増え、音の出る部分らしき四角い穴もできた。
 なぜ再登場でこんなに機能が退化してしまったのか、全くもって謎である。まさか、大長編「のび太と鉄人兵団」で「改良型山びこ山」を登場させるための伏線だったと言うわけでもあるまい。

補足
 「改良型山びこ山」は「のび太と鉄人兵団」で登場した道具で、音だけでなく光や爆風にも反応してこだまを返す。外観は「ま夜中に山びこ山が!」の山びこ山と全く同じ。

ゆうどう足あとスタンプ TC40巻「またまた先生がくる」

知られていること
 先生が家に来るのをごまかせるらしい

登場場面とその状況
 ドラの言によると、先生が家に来るのを「こないだ「ゆうどう足あとスタンプ」でごまかしたばかり」らしい

→初登場「ゆうどう足あとスタンプ」(単行本未収録、「小四」1988年8月号)に見る姿

 この「ゆうどう足あとスタンプ」は、本コーナーで取り上げる道具の中でも最も謎の多い道具かも知れない。何しろ、上記のようにドラのセリフ中に登場したのみで、その姿はてんコミ中では一切見ることができないのだから。
 さて、この道具は「ゆうどう足あとスタンプ」と「足あと採取パウダー」から成り、パウダーを足あとに振りかけ、スタンプを足あとにかぶせることで足型スタンプを作ることができる。そのスタンプで道に足あとを付けると、その足あと通りにしか進めなくなるのである。上記のドラの言葉通り、先生の足あとを野比家の前から先生宅まで付けて、家に来られないようした。
 さて、なぜ「またまた先生〜」のセリフ中にこの道具が登場したのだろうか。実は「またまた先生〜」の初出は「ゆうどう足あと〜」の前月の「小四」1988年9月号であり、いわばこの2作は前後編的存在なのである。それをふまえた上で「またまた〜」を読むと、先生の「きょうこそはなにがなんでも、きみの家にいくぞ!!」と言ったムキになって野比家に行こうとする様子も納得できる。
 よって、本来は「またまた〜」より前に「ゆうどう足あと〜」をてんコミに収録するか、または問題のセリフを変更してゆうどう足あとスタンプの名前を消してしまうか、どちらかの策を取るべきだったと考えられる。おそらく、40巻刊行時に問題のセリフが見落とされてしまい、現在のような状況になったのであろう。

ゆめグラス TC24巻「ションボリ、ドラえもん」ほか

知られていること
 他人の夢を見る事が出来る

登場場面とその状況
 ドラえもん(「ねむりの天才のび太」)やドラミ(「ションボリ、ドラえもん」)が、寝ているのび太の夢を見るために使用。

→初登場「ゆめ」(未収録、「小一」1970年10月号)に見る姿

 『ドラえもん』において「夢」を扱った作品は非常に多く、この「ゆめグラス」も、何回も登場している。連載初期は道具にあまりこだわっていなかったせいか、初登場となったエピソードでは名前はまだ出てきていない。
 初登場時には、夢を見るだけではなく、その夢に手出しが出来る機能まである。このため、ドラとのび太はしずちゃんの夢に出てきた怪物を現実世界に引っ張り出して、スネ夫の夢に移住させるなどと言う事までしてしまっている。
 「ションボリ、ドラえもん」では夢に手出しするために、わざわざ「ゆめコントローラー」という道具を使っているところを見ると、初期型ゆめグラスは単行本登場版とは似て非なる物なのかもしれない。

よびつけブザー TC35巻「ドラえもんに休日を!!」

知られていること
 これを押して呼ばれた人は、どこにいてもとんでくる

登場場面とその状況
 タマちゃんとイリオモテ島へ行ったドラえもんが、何かあったときのためにのび太にブザーを渡した。

→初登場「呼びつけブザー」(FF5巻、「小五」1976年月10月号)に見る姿

 「ドラえもんに休日を!!」では、のび太が迷ったあげくに呼びつけブザーを壊してしまい、結局使われなかったため、てんコミでしかこの道具を知らない人には謎が残ることになった。それは、ブザーを押すと呼びつけたい人がどの様にして現れるかである。
 22世紀の道具だから、呼ばれた人が瞬間移動でパッと現れても良さそうだが、これはそんなスマートな道具ではない。何と、呼ばれた人の体が勝手に動いて、ブザーの方へ歩いて向かって行くのである。出前電話で入浴中のしずちゃんを無理矢理呼ぶのに似ている。何しろ、これを防ぐには呼ばれた人の体を無理矢理押さえつける意外には無いというのだ。このため、のび太はドラにふとんを巻かれ、ロープで縛られることとなった。結構怪しい図である。
 ドラえもんは、イリオモテ島にいるときに本当に呼ばれたらどうするつもりだったのだろうか。泳いでのび太の所へ来るつもりだったのか。道具の働きを忘れていたとしか思えない。

補足
 その後、「呼びつけブザー」は、てんコミ「ドラえもん プラス」2巻に収録された。

わりこみビデオ TC30巻「ジャイアンテレビに出る!」

知られていること
 ビデオの録画の人物に、違う人の顔をはめ込む事ができる?

登場場面とその状況
 「テレビに出て歌いたい」と言うジャイアンの希望をかなえるために、歌手の録画にジャイアンの録画をはめ込んでみたが、「しっくりこな」かった。

→初登場「わりこみビデオでテレビ出演」(FF29巻、「小三」1979年月5月号)に見る姿

 ジャイアンの体に歌手のスマートな体形では「しっくりこない」ため、結局わりこみビデオはジャイアンテレビ出演には活用されなかった。よって、てんコミでは詳しい使用方法は明らかにされていない。
 そのあたりは「わりこみビデオでテレビ出演」で、ちゃんと描かれている。22世紀の道具なのだから、顔写真一枚あればビデオに顔をはめ込めても良さそうなものだが、この道具はそんなに簡単ではない(「この部分は「呼びつけブザー」と文が似てしまったが、ご勘弁を)。なんと、顔をはめ込むためには、その人の様々な表情や口パク映像など、合成に必要な要素を一通り揃えなければならず、それらを全て録画するのに結構手間がかかっている。「ジャイアンテレビに出る!」では、いつの間にジャイアンの色々な表情を用意したのか謎である。
 ちなみに、のび太はこの道具を使って特撮番組「エスパー少年隊」主役のケン隊長に自分の顔をはめ込んだが、ドラいわく「しまらない」映像だった。ドラキャラにテレビ出演は似合わないのか?

補足
 その後、「わりこみビデオでテレビ出演」は、ぴっかぴかコミックス8巻に収録された。



 以上、てんコミに登場していながら、陽の当たらなかったかわいそうな道具達について、わかる限り紹介しました。このコーナーを読んで、これらの道具に対する見方が変われば幸いです。
 なお、未だにいくつかの道具については初登場作品が未調査のままとなっており、ここではまだ取り上げておりません。いずれ、それらの道具についても本コーナーでその全貌を明らかにしたいと考えています。