前回予告したとおり、今回は「アニメ化されていない原作」について取り上げます。
アニメ「ドラえもん」の放映が始まってから25年が経ち、単行本未収録作品を含めて原作の9割以上は既に一度はアニメ化されています。そして、一度アニメ化された原作を再度使ったリメイク版や、アニメ独自の脚本より映像化したオリジナル作品が多数作られており、さらに「ポコニャン」など他の藤子作品をアレンジしたエピソードも存在します。
しかし、このように原作が足りなくなっている状況であっても、まだアニメ化されていない原作もあります。これらの作品は、前回取り上げた「アニメ化しにくい」作品よりも、さらに問題があるのでしょう。
今回は、アニメ化されていない原作の中で、主にてんとう虫コミックス収録作品を取り上げて、アニメ化できない理由について考察します。もちろん、単行本未収録作品にもアニメ化されていない話はありますが、多くの人がどんな話かをご存じではありませんので、今回は軽く触れる程度にします。
なお、前回は「アニメ化しにくい理由」を、アニメドラ元脚本家・松岡清治氏の著書から引用しましたが、今回取り上げる話については、アニメ化できない公式見解が発表されているわけではないので、全て私の推測となります。あらかじめ、ご承知おき下さい。
まずは、一番分かりやすいものから、ご紹介します。
ページ数が少ないために、原作をそのままアニメ化すると時間が余ってしまい、オリジナルエピソードを追加すると言う事は、割とよく行われていました。しかし、上の2編は、あまりにも短すぎて、それすら出来なかったのでしょう。
何しろ、「ボールに乗って」はわずか2ページの上、コマ数も計8コマ。おそらく、原作に忠実にアニメ化したら、1分足らずで終わってしまうでしょう。ボールに乗って色々なところを飛び回る…という話にすれば、帯番組時代の6分20秒くらいは持つかもしれませんが、そうした段階で、オリジナル作品になってしまうでしょう。「アソボウ」は4ページで少しは長くなりますが、やはり話があっさりしすぎているので、アニメ化するには時間が足りなかったのではないでしょうか。
なお、未収録作品では「小学一年生」の1971年4月号〜1973年2月号には毎回2〜4ページの作品が掲載されてましたが、これらもほとんどがアニメ化されていません。
(追記)
2005年4月より、アニメ「ドラえもん」がスタッフ・キャストを一新して再スタートしました。この新生「ドラえもん」(以下「わさドラ」)では、「ドラえもん ミニシアター」として1分間で原作の短い話をアニメ化しており、その中で「ボールに乗って」も放映(2005年5月27日)されました。
「ぼくミニドラえもん」は、原作におけるミニドラ登場編。内容的には特に問題はないでしょう。しかし、アニメにおけるミニドラ初登場編は本話のアニメ版ではなく、劇場版「ドラミちゃん ミニドラSOS!!!」でした。
テレビアニメと映画の連動をはかって、映画の宣伝をかねて「ミニドラSOS」公開の少し前あたりに本話をテレビで放送しておけば、ミニドラのお披露目としてちょうどよかったと思いますが、なぜか、そう言ったことは行われませんでした。
アニメオリジナル話でも何度もミニドラが登場している今となっては、本話のアニメ化は今更感があり、難しいでしょう。もっとも、原作版ドラミ初登場話の「ハイキングに出かけよう」(FFランド2巻収録)が、1991年になってようやく「ドラミとハイキング」としてアニメ化された例もあります(初登場の設定は抹消)ので、今後の「ぼくミニドラえもん」アニメ化も、100%無いとは言い切れません。
(追記)
その後、わさドラで初アニメ化(2007年11月30日放映)されましたが、原作をかなりアレンジした内容となっていました。
マンガとアニメの大きな違いは、アニメでは絵が動くこと。そしてもう一つ、キャラクターが喋り、効果音が流れる、つまり音が付いているという点が挙げられます。
ここで取り上げた2編は、アニメでは「音が付く」故に、アニメ化が見送られたと思われる作品です。まず「ピーヒョロ ロープ」は、原作を読めば明らかなように、笛を吹くことによってロープを操るという設定で、ロープの動かし方によって曲は変わります。それら全てを作曲するのが大変だったのではないでしょうか。菊池俊輔氏作曲のピーヒョロロープの曲が実現しなかったのは残念です。
そして、「音のない世界」。こちらは、もしもボックスによって、全く音のない世界が作られるという話。登場人物は、紙に字を書いて会話をします。ジャイアンリサイタルも同様。
さすがにこの世界設定では、キャラに喋らせるわけにもいかず、かといって漫画のように吹き出しを使ってセリフを表すのではアニメにする意味がないので、アニメ化が見送られたのでしょう。個人的には、アッと驚くような演出法でぜひアニメ化して欲しい作品です。
子供向けのアニメでは、あまり刺激の強い映像はよろしくない…という訳か、人間の体の一部を取り替えたり、バラバラになったりする上記2編はアニメ化されていません。特に「スネ夫のおしり…」は、ダルマ落としの要領で、体が輪切り状態になって一部が抜けてしまうので、アニメで動かすと刺激の強い映像となるでしょう。
と、書きましたが、やはり人体付け替えネタである「手足七本 目が三つ」(「ねこの手もかりたい」)は、なぜかアニメ化されています。これは1980年7月と言う初期の放送であることから、おそらく19時の枠に移ってから自主規制が厳しくなったのではないかと考えられます。
また、未収録作品の中では妙に有名な「分かいドライバー」は、人体バラバラネタの極致とも言うべき作品ですが、やはりアニメ化されていません。
(追記)
「からだの部品とりかえっこ」は、わさドラで「みんなで体をとりかえっこ」として初アニメ化(2010年8月13日放映)されました。
「プロあや」で有名な「あやとり世界」ですが、意外にも、未だにアニメ化されていない作品の一つです。それを、なぜ差別問題絡みで取り上げるかというと、アニメ化できない理由が、オチのドラえもんのセリフ「手がゴムマリだからできないんだよっ」のせいだと言う噂があるからです。手に障害がある人に配慮して、アニメ化を避けたと言う見方は考えすぎでしょうか。
もちろん、アニメでオチを変えた作品もいくつかあるので、もし「ゴムマリ」が問題だったとしても、本作もオチを変更すれば十分アニメ化は可能でしょう。原作は比較的有名な話ですから、そうしなかった事の方が不思議です。もしかしたら、他にもアニメ化に当たっての障害があるのかもしれません。
ちなみに、未収録の「ペタリぐつとペタリ手ぶくろ」「クルパーでんぱ」「ターザンパンツ」あたりは、明らかに差別問題でひっかかっていると思わる作品です。
(追記)
わさドラで「あやとり世界の王様に」として初アニメ化(2010年11月19日放映)されましたが、ドラえもんがあやとりを嫌う理由が全く違うものに改変されていました。上で述べた推測が当たっていたのではないかと思われます。
その1から5まで紹介してきましたが、てんコミ収録作品でアニメ化されていない話としては、この4話が残りました。それぞれ、理由を考えてみます。
まず「重力ペンキ」。原作を読む限りでは特に問題はなさそうですがアニメ化はされず、道具の設定だけを残したオリジナル話「重力ペンキスプレー」へと姿を変えました。これは、ビルの壁面でサッカーをする話です。あばら谷家のクリスマスが無くなっていることから考えると、あばら谷家があまりに貧しすぎて時代にそぐわないせいで、原作そのままのアニメ化を見送られたのでしょうか。一応、サッカーの試合で負けた残念会として、原作のパーティーに似た場面は「重力ペンキスプレー」でも描かれました。
次に「テレビ局をはじめたよ」。これは、元々「ドラミちゃん」作品であり、「ドラえもん」では「のび太放送協会」という似たような話が1981年にアニメ化されているため、あえて放送する必要もないと判断されて、アニメ化が見送られたのではないかと思います。
「天の川鉄道の夜」。これも、アニメ化されていない理由はよくわかりません。強いて言えば「銀河鉄道の夜」及び「銀河鉄道999」のパロディ色が強いためでしょうか。
最後に、「ジャイアンよい子だねんねしな」。クローン問題はアニメでは扱いにくいのでしょうか。原作のオチも、クローンが髪の毛に逆戻りして事を収めていますが、クローンとは言え人格を持った人間に対する扱いとしては、問題だったのかもしれません。
(追記)
「天の川鉄道の夜」は、わさドラで初アニメ化(2009年3月6日放映)されましたが、車掌のキャラクターが原作とは違い「ゴンスケ」に変更されており、ストーリーも大幅にアレンジされていました。
はじめに触れましたが、今回は主にてんコミ収録作品の中でアニメ化されていない話を取り上げました。しかし、最後に1話だけ、未収録作品について、突っ込んで取り上げてみます。それは「45年後……」と言う作品です。
話はこちらをお読みいただければ分かりますが、タイトル通りに45年後ののび太が、小学生ののび太の所にやって来る話です。ささやかながら、自分なりに未来に向かって生きてゆくのび太を描いた、いい話なので、なぜアニメ化されていないのか、以前から不思議に思っていました。
しかし、考えてみれば、50代半ばという「オジン」ののび太の登場は、ある意味「ドラえもん」と言う作品全体の終局に近い話であると言えるのではないでしょうか。事実、本話は学年誌購読の最終号となる「小学六年生」3月号に何度も再録されています。連載の最後を飾るのに、ふさわしいと判断されたからでしょう。もっとも、初出は3月号ではなく9月号ですが。
その点を逆に考えると、番組終了の予定もないのに「終わり」を暗示するような話を流すのは好ましくないと判断されたために、アニメ化されていないのではないでしょうか。本話がてんとう虫コミックスに未収録であるのも、同じ理由だったと推測できます。てんコミは、F先生御自身が収録作品を選んでいたいた作品集ですから、もし収録されたとすれば、F先生存命中に最終巻が出た場合に、その巻に入る可能性があったのではないかと考えています。
もし、アニメ「ドラえもん」が最終回を迎えるのであれば、この「45年後……」を原作に忠実にアニメ化して最終話とすれば、丁度いいかもしれません。
(追記)
その後、アニメ「ドラえもん」は2005年4月よりスタッフ・キャストを一新して再スタートすることとなり、その直前の、旧スタッフ・キャストによるレギュラー放送最後の作品には、この「45年後……」が選ばれました。どうやら、私の考えはあながち的はずれではなかったようです。
以上、未だにアニメ化されていない作品について、その理由を考察してみました。前述の通り、あくまで私の推測ですので、もし「自分はこう思う」などのご意見がございましたら、ぜひお知らせ下さい。
ちなみに、「ドラえもん」が金曜19時の枠に移ってからは、多くの作品が単行本収録よりも先行してアニメ化されていますので、少なくとも「単行本未収録だから」と言う理由でアニメ化されていない作品は、ほぼないと言っていいでしょう。事実、上でも触れた低学年向けの短い作品以外は、未収録作品でも9割方はアニメ化されています。
さて、次回ですが、内容は未定です。ただ、これまでと比べると軽めの内容にしようと考えています。 (2004.9.3)